1章 【ルドベキア】

07話 特訓

 マウロスが去ったあと、王都での火災被害もパタリと止んだ。

 俺が居たことで王都が襲撃に見舞われた。

 そんな罪悪感が胸の中に残り、復興の手伝いをしたかったが、今は潜伏するべきだと師匠に止められた。

 悔しいことだが俺が王都に残ることで、また襲撃される可能性が高い。

 それに今の俺にはあいつらを撃退できるほどの力もない。

 師匠がいても今回みたいに被害を広げる方向で来られては、対処しきれない。

 王都に残ることは諦め。辺境にある小さな村にやってきた。


「や~っと、着いた~」


 目いっぱい伸びをする。

 王都から延べ数時間南下したところにある小さな村。もうすでに日は傾いている。

 地面は舗装されておらず、王都との生活水準の差を感じる。

 筋肉痛の中ここまで歩いてくるのは、それなりの苦難だった。

 

「まずは宿探しですかね? 俺もうへとへとですよ」


「いや、宿の位置くらいは把握してる」


 迷いなく歩いていく師匠についていく。

 今は一刻も早く寝ころびたい。


「今日は疲れてるだろうからいいけど。明日からは特訓だよ」


「うう・・・分かりました」


 いつまでもこそこそした生活を続けるわけにはいかないし、泣き言は言ってられないな。自分の身は自分で守るって決めたしな!

 今度マウロスに会うことがあったら、絶対に顔面をぶん殴ってやる。まあ二度と会いたくはないが。


「着いたよ」


 目の前に見えるのは日本の小さいアパート位のサイズ感の宿。

 何部屋あるんだろうか。

 中に入ると小綺麗にされたフロントがある。


「二部屋で」


 フロントにお金を置く。

 そういえばこの世界の通貨は初めて見たな。異世界らしく硬貨が主流らしい。

 おごっちゃってもらってすいませ~ん。


「二階の奥の二部屋となります。こちらが部屋のカギです」


「どうも」


 師匠から鍵をもらう。一番奥の角部屋だ。


「じゃあ今日はゆっくり休むといい。明日からは毎日筋肉痛だよ」


「ちゃんと治癒魔法は使ってくださいよ?」


 まだ傷も痛むのに重ね掛けに筋肉痛とは。

 魔法なんだから速攻全回復でもいいだろ! 万能なんだか何なんだか・・・

 そんな文句を考えつつ部屋の扉を開ける。

 清潔度良し! 広さ良し! 虫でも湧いてたらどうしようかと思っていたが。

 さすがにそこまで劣悪ではないみたいだ。


「あ~疲れた~」


 明日から何千回というであろうセリフを吐き、ベッドにダイブする。

 つかの間の休息を楽しみつつ、眠りに着いた。


 DAY1

 照りつける朝日の中、地獄の特訓が始まった。


「まずは基礎体力をつけてもらう。神授武器のおかげで身体機能が向上しているとはいえ、君の体はかなり貧弱だ」


「結構がっつり言うんですね・・・」


「ということで今日から毎日10キロ走ってもらう」


「10!?」


 万年引きこもってた俺からすると、1キロでも息が上がるんだが。


「これでも君に合わせて譲歩した方だ。つべこべ言わずに走る」


「はい・・・」


 師匠が遠くをめがけて指を指す。


「あそこに山が見えるだろう? ここからあそこまでを一往復だ」


「はあ~・・・よし! やってやるぞ! 10キロ!」


______________________________________


 数時間後


「ハァ、ハァ・・・も、もう無理です。死ぬ・・・死にます」


 地面にぶっ倒れる。

 足がもう動かねえ・・・なんかめまいが・・・吐き気もしてきた気がする、おええ・・・


「ほら、ちゃんと10キロ走れたじゃないか。後半は小鹿のようだったけどね」


「ハァ・・・そんなの、いいんで、ハァ・・・治してくれませんか・・・」


 治癒で体力が回復し足が動くようになった。


______________________________________

 

「次は戦闘訓練だ。私が相手をするから好きなように攻撃してくれ」


 村の外の平原で向かい合う。

 師匠は木刀一本だ。


「槍使ってもいいんですよね?」


「何でもありだ。でも軽く反撃はするよ」


「一回位は当てさせてもらいますよ!」


 走り込み、ブースターを使って加速する。

 斬りかかるもさらりと回避され、足をかけられこける。


「グエ!」


「攻撃が安直。当たると思わない方がいいよ」


「くそ! まだまだ!」


______________________________________


 何度か斬り結んだ結果、顔面がボコボコになった。

 広い平原。青い空。ずたずたの体。

 ピクニックどころじゃないな。


「師匠・・・反撃は軽くって・・・言ったじゃないですか・・・」


「私は受け流してただけだよ。木刀では攻撃してない」


 地べたに這いつくばり、また治療を受ける。

 

「師匠ちょっと強すぎないですか?」


「まあ、魔人は半分魔物だからね。魔物は身体能力がほかの生き物とは、けた違いなんだよ」


 それにしても強いだろ・・・これは当分ボコボコだぞ。

 ブチッ


「あ・・・」


「師匠? なんですか今の音? 確実にヤバイ音しましたよね? 師匠? 師匠!?」


______________________________________


 時は夕刻。


「最後は魔法の訓練だ。マウロスとの戦いで、炎魔法が使えるようになったみたいだから。その使い方を伝授する」


「魔法か・・・あの時は知らないうちに使えてたんで、出し方もわかんないんですよね」(異音は結局大丈夫でした)


 あの時は一発撃ってノックダウンしたからな。一発撃って退場のはコスパ悪すぎる。


「まずは魔法の出し方だね。魔法の素となる力は地中からもらう」


「地中から?」


 想像してたのとは違うな。もっとこう、体の中の魔力を~とか、魔石を使って~とかじゃないのか。


「そうだ。地中からもらった力を体内で魔法に変換して放つんだ。その性質上空中で魔法を使うことはできない」


 体をフィルターみたいにするのか。感覚は分からないけど、理屈は多少分かった。

 ただ、空中で使えないってことは、空飛んだりはできないって事か・・・魔法使えたらやりたいことtop10に入ってたのに・・・。


「ここまで、なんとなく分かっていればいい。じゃあ実践だ。地面から力が集まるのをイメージして、魔法を打った時の感情を思い出すんだ」



「力が集まるのをイメージ・・・」


 手を器のようにして構える。

 それで魔法を打った時の感情・・・マウロスの笑みが浮かんでくる。

 嫌な顔だな、くそ。

 ボッ!


「うわ! あつ!! ・・・くはないか」


 手のひらには、ろうそくほどの火が浮いていた。

 すげー! 自主的に魔法が使えた! 

 う~んでも、使うとき毎回アイツの面思い出さなきゃいけないのか・・・。


「あの、師匠。これって毎回感情を思い返さなきゃいけないんですか?」


「いや、そんなことはない。ただはじめのうちはそうした方が、感覚をつかみやすいだけだ」


 よかった~、もう二度と思い出したくねえよ。

 そっと胸をなでおろす。


「魔法は基本、自由自在に形を変えることができる」


 そう言うと手のひらで、木だの家だのを作っていく。

 すごい。一芸でやったら儲かりそうだ。


「精密な動きは難しいが訓練次第でどうにでもなる。大体は補助的な使い方をするが。工夫次第で攻撃もできる」


 なるほどー、と見よう見まねで形を変えてみる。


「なんだこれ! 思ってたより・・・ムズイ!!」


 すぐに形が崩れただの火になる。

 眉間にしわが寄り、汗が垂れる。


「これは一朝一夕で出来るものじゃないよ。だから今日からは常に魔法を使い続けてもらう」


「えっと~、どういうことですか?」


「何でもいいから炎で何かを作って、その形をキープし続けてくれ。寝るとき以外は基本ずっとね」


 ずっと、って・・・これを? そもそも形が整わないし。

 ああ! なんか知恵の輪やってる気分になってきた。


「魔法については、まずはこのくらいでいいだろう。今日の特訓は終わりだけど、明日からもこれ以上でやっていくからね」


「・・・はい・・・」


 集中がピークに達している。

 もうちょっとできれいな丸になる・・・。


「ああそうだ。君には世界を周ってもらうからね」


「・・・はい・・・・・・・・・は?」


 綺麗な夕空に炎魔法が砕け散った。






























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