05話 神授の力

 体を半歩引き、あってるかもわからない構え方で剣を抜く。

 大見得切ったはいいものの怖いものは怖い。

 確かにマウロスと対峙したときは、これ以上の恐怖を感じたがあれは別種の恐怖。

 対してこいつには、トラウマのような恐怖感を煽られる。

 

「お? やる気か? 大した度胸あんじゃねえか」


 こちらを舐め腐ったような口調だ。

 呼吸が震え、手足に力が入っていないのを感じ取っているのか。 

 それとも単純に雑魚だと思っているのか。

 どちらにせよ事実、大当たりだ。


「お前こそ、お仲間呼びに帰らなくていいのか?」


 揺さぶりをかける。

 ビビってこの場を離れてくれたらありがたいが。


「調子乗ってんじゃねえぞ、雑魚が!」


 これが現実。もともと期待してはなかったが。

 奴が言葉を吐き捨てるとともに、こちらに襲い掛かる。

 早い! 集中しろ。動きをよく見て、確実にガードしろ。

 左か右か、縦か横か、それとも突きか? 

 答えは! 


「左ッ!!!」


 重い! ショートナイフの威力じゃない! 

 一撃で剣先がぐらつき、剣が右にそれる。

 次が来る! 二撃目! 

 相手の攻撃は左から右に流れている。

 となると考えられる手はひとつ。右だ。

 万力を込めもたげた剣を右側で構える。


 ガチンッ。剣と剣が咬み合い防御に成功する。

 敵は後ろに飛び距離を置く。


「思ったよりやるじゃねえか」

 

 二撃もらっただけで手から剣が零れ落ちそうだ。

 防戦一方だがそれでいい。誰かが来るまでの時間稼ぎさえできたら十分だ。

 変に一矢報いようとなんか考えるな。守って守って耐え抜く、ただそれだけだ。


「お褒めの言葉どうも」


 口ぶりだけは余裕を演出する。

 さあ次が来るぞ、力入れろ!

 まっすぐ向かってくる! 今度は突きか?

 距離、約数メートルのところで奴は飛び上がる。


「上ッ!?」


 全体重を乗せた一撃。受け止めきれるわけがない。

 なら回避一択!

 

「チッ」


 素早く転がりその一発を回避する。起き上がって瞬時に剣を構える。

 何でもないただの雑魚に、手間取っているのに腹が立ってきたのか、大きめの舌打ちが聞こえてくる。

 追撃がやって来る。確実に仕留める追撃だ。

 右、左、斜め、下、あらゆる方向から斬撃が飛んでくる。

 あと何秒これが続く? もうそろそろ限界だ。腕が震えて今にも手を放しそうだ。

 

「グワ!!!ッ」 


 連携の締めに強烈な蹴りが飛んでくる。背中から壁にぶつかり強い衝撃が走る。

 まだ戦える。態勢を立て直し構える。


「ああもう! 早く死ねよ! じれってえなあ!」


 イライラもピークに達したのか。ついには声に出す。

 こっちは時間が稼げればいいんでね。人をイラつかせるのは俺の得意分野なんだ。


「もういい、本気でやってやんよ!」


 何をしてくる? 構えろ瞬き厳禁だ!

 奴が走り出す。ギアが2段ほど上がったように思う。

 さっきより早い!?

 まるで車のようなスピード感で強烈な突きを放ってくる。

 ガードは間に合ったが、威力が強すぎて体は宙を舞う。


「痛ってえ」


 ガード貫通とか無茶苦茶にもほどがあるだろ!

 圧倒的実力差に愚痴をこぼす。


「!? あれ!? 無い!?」


 いつの間にか剣が自分の手を離れていた。

 嘘だろふざけんなよ・・・ただでさえ自力負けてんのに、武器なしのハンデ戦かよ!

 心もとなくはあったが、あるのとないのとじゃ安心感が大違いだ。

 それに武器がないならこれ以上耐久戦もできない。

 かといって仕留める手立てもない。

 これは、

 手先や足先が冷たくなっていく。こんな炎まみれの場所なのに、寒く感じる。


「お前の負けだ雑魚が。てこずらせやがって」


 切っ先を肩で息をする俺に向ける。

 ド素人がこんなバケモン相手によく頑張ったよ。

 自分を慰め俯く。

 よく・・・がんばった。


「まだ・・・まだ終わりじゃねえぞコラああああ!!!」


 自分でもよく分からない。でも、でもまだ100! 

 やれることは残ってる! そうだよなあ! なまけもんのカミサマよお!

 あんたが仕事するならこれが最後のチャンスだ! 

 見せてみろよ! あんたの、


「!? 槍!?」

 

 虚空から槍が出てきて、手の内にフィットする。

 やれんじゃんか。カミサマらしいこと!

 相手は困惑しバックステップで距離をとる。


「雑魚ってのは弱いけどしつこいんだよ! まだまだ付き合ってもらうぜ」


 この槍、軽い! それに力が湧いてくるような気がする!


「チッ! 神授武器か! 神ってのはどこまで行っても不公平だな!」


「それには全く同感だ!」


 今度はこっちから攻める! 

 圧倒的実力差を武器の有利で埋めてやる!

 確実に威力が増した一撃一撃は、防戦一方の状況を、互角の打ち合いまで昇華した。

 だからといって実力差が完全に埋まったわけじゃない。防戦を抜け出しただけ。

 リードは依然アイツにある。

 だから!  


「使わせてもらおうか! 神授武器の真髄、神力を!」


 使い方なんてわからない。どんな力かも分からない。

 でも、今勝つすべはこれしかない!

 俺は神が好きじゃない。むしろあの世に行ったら一発ぶん殴ってやりたいもんだ。

 でも今は自分都合であんたに頼らせてもらう! 

 頼むぞ! 完全にのしちまうような、重てえ一撃を!


 その願いに呼応するかのように、槍が火を噴く。

 この神授武器の神力は、【ブースター】だった。

 

「この一撃で決める!」


 ブースターで加速した槍を全力で振りかぶる。


「おらあああああああ!!!!」


「ッ!!! ガハッ!?」


 発射された槍は相手の脇腹を突き刺した。


「雑魚の・・・勝ちだ! ハァ」


 しなびた体を布団のように広げる。

 勝った! 勝てた。

 でもこれからだ。


「スカフさんのとこ、戻らないと」


 こいつに勝って、ハイ終わりじゃない。

 急がないと。

 手も足も、まだ動く。

 やれる、いける。

 それにこの力ならマウロスにも。

 よぼよぼの体に鞭を打ち立つ。


「行くぞ、待っててくださいスカフさん」


 千鳥足であの場所へと向かう。

 まだ街は燃えている。ということは、マウロスがまだいる。

 スカフさんが戦っている証拠だ。急がなくては。


___________________________________


 着いた。やけに静かな戦場に悪寒がする。


「スカフさ・・・ん」


「おや? まだ元気そうですね、なんで戻ってきたんですか?」


 そこには余裕そうな笑みを浮かべたマウロスと。

 その狂爪に貫かれたスカフさんの姿があった。












 











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