04話 火の手

 天井が崩れ、がれきの山に埃が舞い上がる。


「ごほっ、ごほっ・・・何がどうなって」


 体を起こして目をこすり、周囲を確認する。時は真夜中。

 埃のベールでよく見えないが、崩れた部屋の中に二人の人影が見える。

 誰かいる。恐らくこの状況を作り出した張本人だ。


「お取込み中申し訳ございません。あなた方に要件がございまして」


 礼儀正しく挨拶しているが、天井をぶち壊して入ってきている時点で、礼儀もくそもない非常識野郎だということは明白だ。

 

「人の家に上がる前にまずは名乗るのが礼儀じゃないか?」


 スカフさんは俺の前に立ち剣を構え、臨戦態勢を整えている。

 

「おっと、これは失礼。遅ればせながら名乗らせていただきます。

【マウロス・マスカ】と申します。以後お見知りおきを」


 埃の靄が晴れ、姿が鮮明に映る。

 着けていた仮面を外しながら名乗り、お辞儀をする。


「!? お前!」


 見たことのある顔だった。執事服の様なものを身にまとい、仮面を着けていたから分からなかったが、この世界にきて一番最初に会った

 道理で聞き覚えのある声だと思った。雰囲気もしゃべり方も変わったが間違いない。


「おや? 覚えていてくれたんですね。いや~、実にうれしいことですよ」


「知り合いですか?」


「ちょっと話したことがあるだけです」


 急いでるのに話しかけてくる時点で変な奴だと思っていた。

 となると目的は俺か?


「シズキ君、君を教会に向かわせて正解でしたよ。お陰で中々面白いことを知れましたから。ンフフフフフ」


 キラリと爪のような武器が光る。

 気持ち悪い笑いやアイツの視線に、背中を撫でられるような感覚を覚える。

 オーラが違う。殺意じゃない、もっとほかの、別格の恐怖。

 俺に鑑定をさせるのが狙いだったのか。でも何でだ? それに俺の名前もどこで・・・。

 


「ということは狙いはこの子だね?」


「ンフフ。確かに彼もターゲットではありますが。今回は貴方もですよ? さん」


「赤い魔人?」


 聞き覚えのない言葉に頭をかしげる。

 スカフさんはどこも赤くないし、魔人というのもよく分からない。

 ただ、背中から表情は分からないが、スカフさんにとって耳心地のいい言葉ではなさそうだ。


「シズキ君立てるか?」


「はい、大したケガはしてないので」


 依然、視線はアイツに向けたまま俺にシンプルな剣を一本渡す。

 

「なまくらだけど無いよりましだ。それを持って、誰でもいいから兵士のところまで走って匿ってもらえ」


「でも・・・」


 いや、よく考えろ。俺がここに残って何ができる? 良くてせいぜい肉壁になる程度だ。

 実際は肉壁にすらなれず足手まといになるだけ。ならここは言うことを聞いとくべきだ。


「・・・分かりました。必ず助けを呼んできます」


「その意気だ」


「もうお話は終わりでいいですか?」


「すまないね、待たせてしまって」


「私も作戦会議中に切りかかるほど非常識ではありませんから」


「本当に律儀だね、君は」


 割れた壁から走り出し兵士を探す。

 遠ざかっていく声は何を言ってるか分からなかったが、アイツに泳がされているのだけは分かった。

 癪ではあるが今は逃げることしかできない。


「いいのかい? 逃がしてしまって」


「どうせ逃げられませんよ。彼も貴方も」


______________________________________


「どうなってんだ・・・これ」

 

 走り出してすぐ異変に気付いた。

 王都のあちこちの建物に火の手が広がっている。

 アイツ一人の仕業じゃない。燃える王都には屋根を跳び回る黒い影が見える。 

 恐らく俺を襲ったあの連中だろう。大した数はいないがそこらの建物に火をまき散らしている。


「とにかく兵士を探さないと! こんな状況だすぐ近くにいるはず」


 王都の危機ではあるがこちらも一刻を争う状況だ。

 額の汗を拭い大通りを目指し走る。


「そ・・・ちだ! そ・・・に周れ!」


「人の声!」


 かすかだが確実に聞こえたその声に全力で走る。


___________________________________


「持ち上げるぞ! せーのっ!」


「向こうにも救護班をまわせ! 人命最優先だ!」


「うちの子がまだ中に! 早くしてください!」


 建物は倒壊。人が下敷きになっていたり、取り残されていたり。

 想像よりも悲惨な状況だ。

 兵士はみな手一杯で今すぐ動けそうな人などどこにもいない。



「ハァ・・・早くしないとスカフさんが! ッくそ!」


 近場はほぼ全滅。もっと遠くに行かないと余裕がある人がいない。

 これがアイツらの狙いか! 積極的に殺したりせず被害範囲を拡大することで、少数でも兵士の足止めができる。

 とにかく今は走れ、探せ、足を止めるな。


「ハァ、ハァ・・・ここまで来たらもう俺が行くしか・・・」


 馬鹿げた戯言を口にする。足手まといになるからとあの場から離れることを決めたのに。

 何もできないことは分かっていても、このまま自分だけ逃げ回るわけにもいかない。


「やっぱり戻ろう。俺だって肉壁くらいにはなってやる!」


 あの人の弟子になる、戦うと決めたからには死にかける覚悟くらい、してなくちゃだめだ。

 足を止め振り向き、元来た道を戻る。


「ガキが一匹はぐれちまって大丈夫か?」


 まただ、またあいつらだ。

 今回は一人しかいないがあの時感じたのと同じ、的確な殺意。

 でも前回とは違う。こっちは覚悟決めてきてんだ今更こんな奴にビビってたまるか。


「はぐれてんのはお前もだろ、狂人が」

















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