172話、炎の鳥
気温が、上がった気がする。
なにかが近付いてくるのがやっとわかった。
遠くから、鳥が飛んでくる。
大きくて、赤い鳥だ。赤いというか……
「火?」
「燃えているな。こちらに近付いてくるぞ」
どうやら我々に用があるようだ。町には目もくれず、こちらに向かってくる。
燃える鳥は、私たちの前で停止した。
こちらを、というかレギオンを見ている。いや、レギオンの抱えている、タンタロスを見ているのか。
燃える鳥が、口を開いた。
「ワシは魔王ヘパイストス様の一の配下、カークス! その女、魔王タンタロスをヘパイストス様の元へ届ける事を命じられここまで来た! 大人しく魔王タンタロスをこちらへ渡せば、なにもせずに引き返すことを誓おう!」
え、なに急に。テイムしてやろうか?
いや、ちょっとちゃんと話を聞こうかな……
「詳しくきいてもいいですかー!」
「なんだ、人間か。 ……人間か?? まあいい。魔王ヘパイストス様は、魔王タンタロスを嫁に迎える事としていた! 魔王タンタロスは、あろう事かそれを拒んで逃亡した! ヘパイストス様はタンタロスとの対話を望んでいる。だから連れていかねばならない!」
なるほど。なるほど?
無理やり連れていこうというのだ。私情としては阻止したいが…… どうするか。別にタンタロスにも情はないし。
「連れてって、話をして、それでヘパイストスさんはどうするんですか?」
「様をつけろ人間! 不敬だぞ! ヘパイストス様は、タンタロス様と仲直りを望んでいる! ヘパイストス様とタンタロスは幼なじみ、すれ違いは正さねばならん! 理解したか、人間!」
え、それじゃあタンタロスがここまで逃げてきたのって…… なんで?
「タンタロスは何故ここまで逃げてきたのだ?」
「タンタロスは渇きの病に侵されている! それの治療も含め、我が主、ヘパイストス様が話をしたいと言っているのだが…… 現在は話が通じぬため、足を止めさせるしかなかったのだ。 貴様らがそれを成してくれた故、手間が減った! たすかる!」
つまり、ヘパイストスはこの異常事態にはほぼ関係無いんだな。多分。
タンタロスが病気で、水を求めて各地を移動。
そのせいで水が奪われ、干ばつに。
魔王ヘパイストスとその配下カークスは、タンタロスを何とかするために追いかけてきていた。
ということか?
「渡していいと思います?」
「カークスの言葉に嘘は感じない。ヘパイストスの事は知らないから、どうなるかはわからないけどね」
「私は、レギオン殿とタキナ殿に任せる」
うーん、それなら…… まあ、いいか。
と、その前に。
「テイム」
「……人間! どういうつもりだ!」
カークス、テイム。
とりあえず、魔物生成のリストに入れておきたかったんだよね。それだけ。
「ワシをテイムして、どうするのだ!」
「テイムしたのか、タキナちゃん。……私はタキナちゃんが何を考えてるのか、わからないよ」
「魔王ヘパイストスに喧嘩を売ることになりかねないぞ?」
言われてみるとたしかに。
まあでも、使役するつもりはないんだよね。
「テイムはしたけど、これまでどおりヘパイストスさんに仕えてくれてていいですよ。タンタロスも連れてって。ただし、タンタロスが酷い目にあうようなら、なんとか説得して連れ出して欲しい。それだけ。大丈夫そ?」
「だ、大丈夫かどうかでいえば大丈夫ではないが? 非常識が過ぎるぞ人間…… しかし逆らえんのはわかる。逆らう内容でもないがな。 ……仕方ない、ではタンタロスを寄越すといい! そのうち、またこの辺りに来よう! ではな!」
カークスはタンタロスを背負い、飛んで行った。
さて、これで本当に解決かな? あとは明日クジラを生成してレギオンに預けるだけだ。
「タキナちゃん…… あんた、イカれてるね。恐ろしくみえるよ」
え、なに急に。こわ。
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