137話、勇者対談
「ヘリオスさんは、魔法は使えないんですか?」
イサムが質問する。緊張は解けてきたようだ。早いな。
「魔法はね、使えないんだよね。僕は、神剣一本でやってきたから。……そうそう、その話なんだけどね、イサム君が持ってる聖剣、実はただの聖剣じゃなくてさ。条件が整えば、更に上位の神剣に進化するんだよね」
神剣とな。たしかに、聖剣なんてうちで量産できる程度の代物だし、世界を救うっていう勇者には相応しくないものだとは思ってた。いや、聖剣もすごいんだけどね?
「その、条件とは?」
イサムが前のめりに聞く。強くなりたいイサムには、大事な話だろう。
「ひとつは、霊峰の真の主の心臓を貫くこと。霊峰って言うのは……そう、この迷宮がある森の奥の山の事ね」
なんだか言い方が引っかかるな。倒すとか殺すではなく、心臓を貫く、か。
「そしてもうひとつは……神の血を剣に与えること」
「神の血……?」
なんとまあ、物騒な。
「神剣っていうのは、神がその血肉でつくったとされる剣だからね。神の一部が必要なんだよ。で、だ」
ヘリオスも前のめりになる。イサムとの距離が近い。
「神の血。神なんてもの、この世界ではユリスとエリスのふたりしかいない。……だから、神剣は無理かなと思っていたんだけどね」
そう言って、チラッと私の方をみた。
嫌な予感がしまくるぞ?
「ここに、神がいるんだよね。……まだ擬神だけど、神剣の条件は満たせる」
つまり。
「私、斬られるの!?」
「た、タキナさんを斬るなんて! 無理です! 精神的にも無理ですけど、多分物理的にも歯が立たないというか」
それもそうか、防御力……
「タキナさんが自分で自分の手を切るとか、そういうのは出来るでしょ?」
え、できるのかな。たしかに自分で肌を抓ると痛い。へえ、しらなかった。
「タキナさんに血を分けてもらって、その血をイサム君のもってる聖剣に付与する。それで、条件はクリアできるんだよね。あとは霊峰の真の主の心臓を貫けば、神剣の完成だ」
霊峰の真の主、はわからないけど、とりあえず片方は簡単にクリアできそう、って事だね。神剣がどの程度のものかはわからないけど、イサムが強くなるのは良い事だ。
「で、ここからが本題なんだけど。神剣が完成したら、やってもらいたい事があるんだよね」
初代勇者の頼み事。イサムはまさに、神託を待つかのようにソワソワしている。
「まさか、神剣で邪神を討て、なんていわないですよね」
タキナは訝しんだ。ジト目の私を見て、底意地の悪そうなニヤリとした笑顔で、ヘリオスが口を開く。
「まさか、邪神なんてそんな。……まあ、倒してほしい相手がいる、ってのは正解だね」
「で、その相手とは……?」
ごくり。と音がなりそうになる。焦らされると緊張が増すからやめてほしい。
「イサム君にはね。ユリスを倒して欲しいんだ。そして、新たに神になってほしいと思っている」
「は?」
は?
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