136話、勇者と勇者
80日目。
思えばたったの八十日で、色々な事があった。
このままだと一年以内に神になってしまいそうだ。冗談でもなんでもなく、本当になりそうだからこわい。
守るものも増えた。たった八十日で、何百もの魔物を配下にし、何百もの人々を庇護している。
「こんなことになるとはねぇ」
「俺も、勇者なんかになるとは思いませんでしたし。人生って、なにが起こるかわからないですよね」
「ほんとにね」
勇者を迎えに城に行き、アビスの迷宮まで向かう途中、少しだけ雑談をする。
互いに、大変な人生になったものだ。そもそも、異世界に召喚された時点でとんでもない事なんだけど。
「さて、緊張はもう大丈夫?」
「いや、うん、大丈夫です。正直めちゃくちゃ緊張してるけど、なんとか」
昨日はあまり寝られなかったみたいだけど、朝ごはんはもりもり食べてたし、大丈夫かな。
ヘリオスは、普通の日本人の感じだったし、会って話せば緊張は解けるだろう。そういえば、なんで日本人ぽくない名前なんだろう。日系? それともこっちで新しく名前つけたのかな? それも聞けたら聞こう。
アビスの迷宮、二十層。
今回は、余計な乱入もなく、扉は最初からそこにあった。
一応ノックしてから入る。
前回と同じく、畳敷きの和室。真ん中に三つの座布団、そのうちのひとつに、日本人が座っている。
「やあ。昨日ぶり。はやくて助かるよ」
「昨日ぶりです。とりあえず、イサムを連れてきました」
「い、イサムです! よろしくおねがいします!」
「緊張してるねえ。僕って、そんな感じに伝わってるのかな」
「らしいですよ? 本とかいっぱい出てるみたいですし」
「嬉しいな。さて、今日はイサム君に渡すものと、話すことがある。タキナさんは一部知ってる事もあるだろうけど、とりあえず聞いといてくれてもいいよ」
とのことなので、とりあえず静かに聞いておくことにする。
一部知ってるってのは、神が両方狂ったって話かな。
三人とも座ると、三人の真ん中にちゃぶ台が出現した。
ちょうどいいので、お土産のお菓子と湯呑みを渡す。
「つまらないものですが」
「わ、雅な湯呑みだねえ。へえ、イサム君がつくったのか。しかしやっぱり、魔法があると焼物も一晩で出来るんだね。すごいや」
湯呑みを眺め、溜息をつくヘリオス。たしかに、できが良いな。
「魔法って凄いよね。イサム君は魔法、使えるのかな?」
「ええ、一応、全属性を少しだけ。戦闘でメインはれるほどじゃないですけど、日常で使う分には便利ですよね」
「ああ、僕は魔法つかえないから、羨ましいな。今の勇者は魔法も与えられるのか。すごいねえ」
え、魔法つかえないの、初代勇者様?
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