132話、抑止力
「今の私の本体は、心神喪失ってところね。ユリスの呪詛によって、嫉妬や激情を抑えられなくなっている。ここにいる私は、そうなる前の分体。レリアとは昔は仲が良かったから、無理を言って体を貸してもらっているの。もちろん、魂の保護と引き換えだけどね」
な、なにを言っているのかよくわからない。
とりあえず、今目の前にいるエリスは、敵ではない、かもしれないってところか。
そして、エリスが襲って乗っ取っていると思っていたレリアの体や魂も、エリスによって保護されている。エリスの言うことが本当なら、だが。
「私一人では、ユリスに勝てない。私の本体は、魔王やら勇者やらを集めて、なんとか立ち向かおうとしているようだけど……ちょっと、無理があるわよね。ユリスによって生み出された存在をいくら集めたところで、ユリスには届かない」
その言い方だと、勇者は元より、魔王もユリスによって生み出された存在、って事にならないか? 魔王、魔族、魔物は、エリスがつくったものだとばかり……
「そこで、あなたの出番よ。曲りなりにも神である私を取り込み、あなたが神になる。あなた本来の力と、あなたの中のアビスの力、あなたの生み出した魔物と使役した魔物の力、そこに私の力を組み合わせれば、ユリスなんて簡単に倒せちゃう。どうかしら?」
魅力的な提案だ。私の力が増せば増すほど、私の国が安全になるのだから。
だけど……
「なんで私が、ユリスを倒す、ってことになってるの? 別に、戦いたくなんかないんだけど」
そう、私は別に、私の邪魔になりさえしなければ、無闇に喧嘩を売ったりしないのだ。
「本当はお姉様に痛い目を見てほしいけれど、どうしてもというなら戦わなくていいのよ? ただ、勝てる。それだけで抑止力になるの。今の世界は歪よ。人間に都合の良すぎる世界になっていっている。昔はもっと、魔族も、魔物も、のびのびと暮らしていたのに。今は魔物は人間の糧でしかないし、魔族も人間の団結のための敵でしかない。私とお姉様が目指したのは、こんな世界じゃないの。狂ってしまった私と、狂ってしまったお姉様を、あなたが止めて。そして、私たちの理想を叶えてほしい。おねがい……!」
エリスもユリスも、狂ってしまっているのか? だとしたら、この世界、やべぇのでは。
いや、やべぇから私が呼ばれたのか? 頭がこんがらがってきた。私は、世界の命運をどうこうできる器じゃないはずなのに。なんでこんな事に……
だけど、そう。
私は、私と、私の大事なものを守る。それだけは揺るがないし、邪魔させない。
そのためなら……神にだってなるし、神だって叩き潰す。
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