131話、二十層目。


79日目。

今日はアビスの迷宮に行こうと思う。

今回は二十層。大きなボスのいるはずの層だ。何が居るかな。十五層はバハムートだったし、十層は黒龍。五層はニーズヘッグ。並べてみると、期待と不安があるな。


「私もいくのです」


というわけで、マリアと私、あとメタスラちゃんで向かうことにした。

他のみんなは、街でやることがあるらしい。忙しいね。私は国王なのに暇だね。いいのかな。




アビスの迷宮、二十層。

そこは、真っ暗な空間だった。

やばい雰囲気が、ひしひしと伝わってくる。


「こわいのです」


「こわいね。ボスも見えないし……」


およそエリアの中央だろう場所についたが、ボスどころか、生き物の気配がない。 床と壁は、かろうじて認識できるのだが、それ以外は本当に、なにもない。


少しして、気が抜けてしまったとき。

まばたきひとつの後、目の前に、人型の何かが現れた。


「マリア!? ……じゃない?」


「お母様……なのです……? 私の知ってるお母様より、ちょっと歳上なのです……?」


マリアのお母様……レリアさんだったっけか。吸血鬼の王、ヴァンパイアロードの。

しかし、このオーラ……なにかがおかしい。


「……! マリア! 避けて!」


「ッ! うご、けないのです!」


瞬きの間もないほどの速度でマリアが相手の影に囚われ、動きを封じられた。そして、私も動けない。

この感覚、似たものに覚えがあるぞ。


「まさか、エリス……?」


「そう、そのまさかよ? ……はじめまして。私の愛しい勇者サマ」


勇者。私のことだろうか。ユリスが呼び出したイサムも勇者だが、エリスからみればエリスが呼び出した私が勇者なのだろうか。

そんなことより。


「マリアを解放して。でないと、本気だすよ」


マリアだけは助けないと。一瞬でも拘束を剥がせられたら、自力で抜け出せるだろう。


「あら、私はおはなしがしたいだけだから、それが済んだら解放してあげるわよ? それに、この身体は、あなたの想像通りのモノだから……あんまり乱暴にしないほうがいいでしょうね? 私も気に入ってるし」


人の大事なものを弄ぶかのような戯言だ。その体は、マリアの大切なお母様のものだ。エリスが好きにしていいものではない。

私の手で、諸共消し炭にしてやるべきか。


「さて、頭に血が上っているようだし、はやめに本題に入りましょうか。私って、あんまり人に好かれない性格らしいし……ユリスお姉様が羨ましいわ」


「話だけはきいてあげる。マリアに傷一つつけたら、異世界の果てまで追いかけて潰すからね」


キッと睨みつけ、吠えるように言う。たしかに頭に血が上っているようだ。少しだけ、冷静になろう。

戦闘態勢を解く。いつでも気を放てるように意識しつつも、話を聞く姿勢にはなった。


「じゃ、まずは簡単に言うわね」


「はやくしなさい」


「タキナ。あなた、私の本体を消し飛ばしたあとは、私の代わりに神になりなさい」








「は?」


は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る