125話、私は私


「そもそも、私はエリスの配下じゃないし」


「え! そうなんですか!? ……じゃあユリス様の方へ?」


「いや、どっちもちょっと嫌かも」


ユリスの掲げる人種だけの繁栄なんて面白くないし、エリスのやり方は気に食わないし、どっちもちょっと、嫌だわ。


「つまり! ……どういうことですか?」


「つまり、そうね。今暴れ回ってるエリスはひとまず静かにしてもらうし、ユリスとはソリが合わないだろうから関わりたくないかな」


「……僕はどうしたらいいんだろう? わかんなくなってきた!」


多分、アビスもヘリオスも、私と同じように思ったんだろう。

この世界にはいろいろな種類の生き物がいるんだから、みんなで仲良く出来た方が良くない? って。

ま、たとえば魔物に食べられたり、逆に魔物を食べたりとか、どうしても埋められない溝はあるだろうけど。


「貴方はユリスの配下? なら伝えておいて。私は私の理想を叶える。エリスは私の邪魔をしているから叩き潰すけど、そっちの邪魔はしない、互いに関わらないようにしましょう、と」


こっちはこっちでやりたいようにやるけど、そっちの敵でもないから、仲良くはしないけど敵対もしないでおこうね、って感じで。


「わ、かりました! よくわかんないけど伝えておきます! 長い間、気を失ってた僕に魔力とかわけてくれてありがとうございました! ではまた!」


頭をさげ、いい笑顔で締めたと思ったらフと消えた。

帰ったのだろうか。

そもそもなんで、天使じゃなくて、堕天使、天魔とやらが私の元に送られたのだろうか。

疑問はいくつもあるが……まあ、もういなくなっちゃったし。次回会えたら聞こう。


「なんかめちゃくちゃつかれた」


「おつかれさん。紅茶でもいれてやるよ。……俺ァ、タキナについていくぞ。これからも」


「ん。心強いよほんと」


私とゼスト、理想は一致してる。一緒に頑張ろうね。


紅茶を飲みながらゆっくりおはなしをして、その日はゼストの城で夜を過ごした。

マリアとアリスが同じベッドで並んで寝ている姿を見た事があるのは、多分私とゼストだけだろう。なによりも美しい光景だった。





翌日、77日目。

朝ごはんを城にいたみんなと食べた。

相変わらず、マリアの調味料の付加量にゼストがドン引きし、アリスの食事量にロミオが慄いて、いつも通り楽しい食事だった。


「ハニートースト、毎日食べたいのです」


「毎朝同じこと言ってない?」


「それくらい美味しいってことだろう。気持ちはわかるぞ」


「わたくしも毎日いろいろ食べたいですわね」


「お前、さっきもステーキ食ってなかったか?」


「ゼスト様、それは乙女の秘密にございますわよ」


「沢山お食べになるのは良いことでございます。ゼスト様も、おかわりはいかがでしょうか?」


「ん、もらおうか。ベルゼもしっかり食えよ」


私は知っている。

アリスは調理班の視察の名目でめちゃくちゃ試食をしていることを。

自分の能力、ガチャを毎日自分で食べる為の飯ガチャに費やしていることを。

まあ、それくらいどうと言うことはないほどに働いてくれているので、なにも言わないけどね。


「そういえば、そろそろゴールド様がこられる頃でしょうか。ロミオ様の御国のほうは、ご無事でしょうか……心配ですわね」


二週間ほど来ていないのかな? ペースはまちまちだが、たしかに最近の情勢を考えると不安だな。


「じゃ、逆に私があちらに行くというのは……」


「却下だ」


「それは無しですわね」


「ダメなのです」


「馬鹿か?」


みんな酷い。ゼストは特に酷い!

なんでだろう。なにが問題なんだろう。

……初めての遠出、してみたかったな。

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