94話、ドラゴン肉


ヴァンを案内に、マリアとメタスラちゃんを見送った。半月ほどで往復できるという。

ヴァンの里は、魔の森の向こう側、世界樹の杖の迷宮があった山の向こう。

ていうか、魔の森の向こう側は魔族の集落が多いらしい。そうなのか。

山の裾に秘密のトンネルがあるので、魔の森さえ抜けられる実力があれば安全に山越えできるという。魔の森が危ないんだけどね普通は。


「じゃ、街に帰ってみんな呼ぶかな。ドラゴンの素材回収の時間だ」


フェルちゃんとフロストドラゴンに声をかけ、街へ戻る。





街で手のあいてる人に声をかけて、適当に編成を組んでもらってドラゴンの件は任せる。大方、ドワーフがメインでなんとかしてくれるだろう。

私はベルゼとアリスに報告しておこうと、ゼストの城に向かう。


「というわけで、ドラゴン百体。お肉は食べたいから、そんな感じでお願いね、アリスちゃん」


「承知致しましたわ。ポイズンドラゴンの肉は亜人王の腕輪用ですわよね?肉以外で欲しい部位はありませんか?」


「ん、わかんないからドワーフと相談して」


「では、早速現場に向かいますわね」


アリスは足早に城を出た。

最近は結構アクティブになってきたなあ。動き回る財政担当、頼もしい。


「ひとまずは、討伐お疲れ様でございます。わかっていた事ではございますが、無傷で帰ってこられた事、喜ばしく思っておりますよ」


「ありがとね。ベルゼの警戒があったからこその損害無しって結果だけど。これからも宜しく」


ベルゼは一礼し、席をたつ。


「わたくしめは、警戒網の再構築を行います。もう少し早く伝達できるように努めます」


うんうん、勤勉な配下ばっかりで私は嬉しいよ。





さて、朝は結局なにも食べなかったから、昼ごはんはゆっくり食べよう。

調理班のところへ向かう。

ああ、せっかくだし、ドラゴンの刺身が食べたいな。と思っていると、アリスが調理班の所にいた。


「刺身かステーキかと思い、まずはファイアドラゴンの尻尾を持ってまいりましたわ。これなら、刺身でもステーキでも、カツでもハンバーグでも、なんでも美味しくいただけますわよ」


有能すぎる。この子が有能すぎてこわい。

というわけで今日の昼ごはんは、アリスと一緒にドラゴンの刺身をいただく事にした。


場所は調理場の隣の、仮設食事所。主に調理班が休憩に使う場所だ。

お昼ご飯は、ファイアドラゴンの尻尾の刺身、ドラゴン肉炙り丼、さっぱり柑橘ジュース。


「成長しきっていないからでしょう、お肉の柔らかさが際立っておりますわね。ワイバーンよりもっとお肉の味が強いのですが、くどくなく食べやすいですわね」


たしかにこの肉は食べやすい。刺身も炙り丼も、溶けるような柔らかさだが脂っぽさがくどくなく、いくらでも食べられそうだ。


「こうなると、他の種類も気になるわね」


「当然、タキナ様に食べていただく分は確実に確保されるように手配しておりますわよ」


はい有能。有能すぎ。

ファイアドラゴンは柔らかく溶けるような食感だったが、フロストドラゴンやアースドラゴンがどんなものか、夜にでも食べ比べしてみたいな。


「ああ、頭部に関しては、念の為にすべてスラちゃんに食べてもらっておりますわ。レギオンの欠片が、どのような悪影響を及ぼすかはまだわかりませんからね」


たしかに、あのぶにぶにはちょっとこわい。


「頭、とくに目の周りとかが美味しいんだよね、生き物って」


「迷宮などで拾ってきてくださればいいのですけれども」


ドラゴン、迷宮ではボスとしてしか見たことない気がするなぁ。ワイバーンはいるのに。

もうすこし深く潜ればいるか。


「ああ、今日のテイムどうするかなぁ。ヒナ連れてアビスの迷宮いくかなあ。マリアもメタスラちゃんもいないから不安だ……」


「それは不安ではなくて、寂しいだけではございませんの?」


うーん、そうかもしれない。

ま、ふたりでも戦力はじゅうぶんか。ヒナを呼ぼう。

午後は迷宮探索だ。

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