93話、処遇
「俺はドラゴニュートのロン族、次期族長候補のヴァンという。このドラゴンたちは、ウチの里で俺たちが育てたドラゴンたちだった。成竜になるまで、まだあと五十年はかかるんだが……」
捕まえた魔族、ヴァンに話を聞いている。
どうやら大切なドラゴンだったようだ。ま、襲ってきたら倒すよね。ごめんね。
「何故襲撃を?」
「……すまない。とある魔族に一族を人質にとられ、ドラゴンたちも奪われたのだ。それで、襲撃にて戦果をあげれば一族を安全に解放、正式に魔王軍の部下として登用してやると言われていた。だが、結果はこの有様だ」
誰が見ても負けだよねこれは。
ヴァン自身も強そうだけど、成竜でないとはいえドラゴン百体よりは弱い。ドラゴン百体を無傷で倒された時点で、ヴァンに勝ち目はない。そりゃそうか。
「貴方の一族はどうなる?」
「俺の負けが伝わった時点で、よくて奴隷扱いだろう。いや、死んだ方がマシか?どちらにせよ、良い目にはあわない。……すまない、恨まれるべきは襲撃者であるこちらのはずなのに、俺は貴様らを恨もうとしてしまっている。愚かで卑しいな……」
うーん、悪い人ではなさそうなんだけどなぁ。
手放しで良い人とは言えないが、事情があったわけだし。こっちは無傷だし、無かったことにも出来はする。
私としては、どうにかして一族丸ごと助けて、私の配下にしたいのだが。はてさて。
「一族の、里?はどういうふうに人質にとられてるんですか?」
「ああ。里を、大型小型合わせて十万の魔物で囲われている。さらに我らの主戦力であるドラゴンはすべて奪われた。つまり、魔物の壁になっているということだ」
おお、それは難しい。
たとえば我々が正面からぶつかったとしたら、余波で里が踏み潰されてしまうかもしれないし。
ここに来た百のドラゴン以外にも、ちゃんとした成竜もいるだろうし。
どうするか。殲滅するのは簡単だけど、救助がなぁ。
「私がいくのです。私が正面から、霧と幻影、魅了と支配を使えば潜入は簡単なのです。そのまま人質全員を支配して、戻ってくれば良いのですよ。そのあとは好き放題なのです」
なるほど、マリアの能力ならそれもできるか。マリアも、最初に比べてめちゃくちゃ強くなったという。やはり自分より強いのがいると強くなりやすいんだな。だいたいゼストのおかげだなこれは。
「マリアだけじゃ心配なんだけど、追加で誰か連れて行けない?」
「ううん……おじいちゃんなら良いのですけれど、そうすると街の守りが不安になるのです。ヒナだと目立つのです……」
「じゃ、メタスラちゃんにするか。この子ならヒナくらいの実力はあるでしょ」
「それなら安心なのです!」
というわけで、ヴァンの里へは、マリアとメタスラちゃんがいく。目的は、人質の確保。
「ちょ、ちょっとまってくれ。どういう事だ?なんの話をしている?」
ヴァンが焦った表情でこちらに問う。ドラゴニュートの表情はわかりづらかったけど、これはさすがにわかるね。
「ヴァンの里を救います。で、ヴァンと里にいる人質全員、私の配下になってもらいます。いいですね」
ヴァンは焦りと疑い、いろいろな感情をぐるぐるさせたような表情をしている。ああ、よく見ると表情豊かだ。
「わ、我らの民が救われるのであれば……それに、敗者には拒否権などない。が、あまりにもこちらに都合が良すぎないか……? 」
「いや、私に都合がいいんですよ。新しい住民候補に、力の差を見せつけた上で恩も売れる。魔王軍の戦力も削れる。互いにウィンウィン、に見えるでしょうけどね」
全く本当に私に都合のいい展開だ。玉砕覚悟でヴァンがおそってこなかったのも、魔王軍がヴァンの里を人質として置いておいてくれているのも、全部が私のためかと思ってしまう。
「というわけで、里までマリアの案内をお願いしますね、ヴァン。この働き次第で、あなたの民の扱いがかわると思ってください」
ま、住民の扱いなんて、私の配下である以上は平等なのだが。義理堅そうだが、少しくらい脅しておいてもいいだろう。
「……お任せを。不肖このヴァン、身命を賭して、この任を果たします」
「果たします、なのです!」
うん、マリアは帰ったらパフェでもつくってあげよう。かわいい。
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