95話、銭湯
明日にしようといって数日、ようやく本日、アビスの迷宮の十五層に向かう。
そういえば、五層ごとになにか大きいのが封印されていたな、と思い出した。
「ついてくだけっすよ?」
ヒナはちょっとビビってる。
ニーズヘッグも黒龍も勝てないからね、次も強いだろう。
というわけで、アビスの迷宮、十五層。
そこには、燃え盛る社があった。
「またドラゴンっすね」
「なんかめちゃくちゃかっこいいんだけど」
そこにいたのは、黒と赤が映える大きなドラゴン。
普通のドラゴンよりふたまわりは大きく、そして爪や牙がごつい。強そうだ。
「よし。テイム!」
「はやいんすよ。まだちょっと遠いのに」
エリア外からテイムはボス戦の基本よね。
というわけで、魔物情報をみてみよう。なにドラゴンかな。
バハムート。
異世界では、世界を支えると言われる伝説の竜。
この世界では、竜種の上位種として存在する。
火と熱を自在に操り、武器とする。
見た目に反して争いが好きでなく、物を溶かして粘土のようにいじるのが好き。
肉食。生肉が好き。
うーん、バハムート!私の街に神話生物が溢れてきているぞ。
しかしこっちでは普通の魔物っぽいな。ドラゴンの上位種だから普通ではないけど。
火と熱を操って、ものを溶かすのが好き、か。ドワーフに預けるか。緊急時は戦闘要員だけど。
「バハムート。伝説に残るほどの魔物っすね。山を溶かして火球にして、城下町を一瞬で瓦礫にしたっていう」
「え、やばいじゃん。ほんとにつよいんだ」
「強いどころじゃないっすけどね?」
魔力量も期待以上ぽいな。
さて、テイムしたし、一旦地上に戻るか。
まだ昼過ぎ、夕方はなにしようかな。
バハムートをドワーフたちに預け、ヒナと銭湯に向かう。
森の中の川からの水の引き込み事業がはじまったので、先に水を使う施設をいくつかつくっていた。銭湯は、そのうちのひとつだ。
運営は税金で賄われており、住民は一日一回は無料で入ることができる。アリスによれば、特別な事情がなければ、二日に一回は入ることを義務付ける法が設けられるそうだ。鍛冶に集中したドワーフが臭いという苦情が何件かあったためだ。ドワーフは別に風呂や水浴びが嫌いなわけじゃなくて、めんどくさがるだけなので、法にしてしまえば絶対に従う。
男女別で分かれている上に、各入口、脱衣所、そして湯船がある内部にも、当然警備の海鎧が巡回している。万が一にも覗きなんてできない。男女共に、ね。
服を脱ぎ預け、タオルを手に湯のほうへ。掛け湯をして、ヒナと体を洗いあい、湯船へ向かう。
「うひゃぁ……いい湯っすねぇ……」
「猫なのに水平気なんだ」
「水は嫌っすよ、湯は別モンじゃないっすか?あと、獣人に動物扱いはあんまりっすよ?」
おっと、気をつけよう。気をつけようと言いながら、ヒナの顎下を撫でる。ゴロゴロ鳴ってるが。猫だが。言っちゃいけないんだな。
と、のんびりしていると、見知った顔がひとり増えた。
「あら、タキナ様、ヒナ様。お仕事帰りでございますか?」
「アリスもお仕事おわり?おつかれさまー」
「おつっすー。ドラゴンの件は済んだんすか?」
アリスだ。私たちの正面に座った。
ふぅ、と一息つき、こちらを見る。
「ドラゴンの件は、残りはドワーフたちにお任せしておりますわ。防具や魔道具をつくりたいとの事なので、張り切っておりましたわね。お肉はすべて、調理班の所と集積所に運び込んでおります」
うんうん、仕事がはやい。
「晩飯が楽しみっすね」
「なにがでるかな?ステーキ?ホルモン唐揚げとかも食べたいな」
「なんすかそれ!内臓の唐揚げ……気になるっす」
「揚げ物もしますでしょうし、はやめにリクエストされるとよろしいでしょう。ところで……御二方は、お付き合いされておられるのでしょうか?」
アリスが急に変なことを言い出す。風呂場で全裸でひっついてるからか?
私とヒナは、ポカンとしている。ヒナの頭を支える手から力が抜けたのか、ヒナは湯に沈んでいった。
「ぷぁっふ!急になに言うんすか?仲はいいすけど、友人とかそんな感じっすよ?」
湯から這い出てきたヒナはそういう。まあ、友達だよな……いや、このままからかうと面白そうだ。
「そうね、恋愛対象では……いや、ヒナなら……?」
「え!急にそんな空気だすのやめるっす!卑怯っすよ!」
「あらあら、やはり御二方は……」
「アリスも恋愛対象としてイケるかも……?」
「え、あ、その……不束者ですが……」
「悪ふざけはやめるっすよタキナ!アリスが真っ赤っす!」
あちゃ、アリスが目回しちゃったな。
ちょっとからかいすぎたか。
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