閑話5、勇者、魔大陸へ。


「本当に魔族しかいないんですね……」


俺、イサムは、大魔王ゼストに連れられ、レギオンが支配しているという魔大陸に立った。

レギオン。俺が討伐すべき魔王、とされている相手だ。

が、果たして本当に倒さなければならない相手なのか。それを見極めるために、直接会いに行くぞ、ということになったのだ。


「見えるならわかるだろうが、アイツらはただの村人。人種の敵じゃねぇ」


そうだな。正直、弱い。戦えそうにない者も多い。

俺が討伐すべきなのは、人種の敵だけ。彼らはただ魔族なだけだ。俺の敵ではない。





数日、旅をした。

基本的には瞬間移動だけで移動していたが、街が近くなると敢えて馬車に乗ったりもしてみた。

人間の国とほとんど同じなんだよな、街並みも、景色も。


「魔王様の事は、どう思ってますか?」


馬車で、老夫婦に尋ねてみた。

老夫婦は、くしゃくしゃの顔を見合わせ、笑顔で答えてくれた。


「レギオンさまはのう、いーい魔王さまじゃ。危険な魔物からは助けてくれるし、村の税も多くない。おまけに村の守りのために、支配なされた魔物を貸し出してくれたのじゃ。むかしからずーっと、最高の魔王さまじゃよ」


なるほど。善政をしいているようだ。

魔物を支配する、というのは、やはり自らの一部を埋め込んで、ということだろうな。

人を襲っている魔王軍の魔物も、レギオンの一部が埋め込まれている。

はたして、レギオンは、俺の敵か。





道中、魔物の大群に襲われてる村を発見。

当然、村に加勢。魔物を討った。

……レギオンの、欠片が埋め込まれている。どういうことだ?


「お城からのお代官様が、村に来てこういったんです。『村が多数の魔物に襲われた場合、一人でも多く隣の村まで逃げ、そこから王都へ報せを送るように』と。ありがとうございます、私たちは今より、王都へ向かいます」


村人はそういう。レギオンの偽物、だろうか。レギオンの偽物が、レギオンの国の魔族すらも襲っている。

ブラインさんのいた大陸も、アリスちゃんのいた国も、襲われていた。そして、魔族しかいないこの村も。もしかすると、決まった対象なんてないのかもしれない。無差別の侵攻、だとしたらなんの意味が……?


「そもそも、魔王の侵攻の理由ってなんなんですか?」


ゼストに聞いてみる。

ゼストは首を傾げながらも、答えてくれた。


「第一に、領地の拡張のためだろ。だが、それなら一極集中が基本だ。いままでの兵力を全て一国に投じていれば、端から容易く落とせている。第二に、力の誇示。これも、普通なら各地にバラバラに兵を投じる意味は小さいだろう。なんというか……今の魔王軍とやらの戦い方は、知性を感じられない。さすがにこんなやり方はないだろう。で、第三が……」


「そもそも、魔王の侵攻ではない、とか?」


「……そういうことだな。やはり、偽物がいる、というのが事実なのだろう。その偽物が、魔族らしからぬ方法で世界を混乱に貶めているわけだが。まぁ、なんのためにかと言われると……わからんな。今起こってることから予測するしかない」


今起こってること。

世界中が恐怖している。混乱している。

犠牲もでている。しかし、人類を減らすならもっとやり方がある、という。


「侵略でも、種族の根絶なんかでもないなら……そもそもの目的が、混乱をもたらすこと、かもしれない?」


「……魔王カオス、か?」


「え、そんな魔王もいるんですか」


「いた、というのが正しいか。俺が消したからな。……だが、では、何故?という話になってくる。さすがに、復活はしないだろうが。しかし、混乱をもたらす理由としては一番……いや、まさか」


なにかに気づいたように、固まった。


「レギオンは、群体だ。レギオンを構成する細胞ひとつひとつが、全てレギオンという個体だ。つまり、レギオンは無数にいる。たとえば仮に、それの一部を食ったとしても、レギオンは死なないだろう」


なんの話をしているのだろう。


「魔王カオスは、俺が消した。とは言ったが、肉体を消し飛ばしたわけではない。墓があったはずだ……で、ここからが大事な話なんだが」


「俺が殺した当時の勇者のユニークスキルがな。『食べた相手の権能を全て自分のモノにする』というものだった。権能とは、スキル、種族特性、そしてユニークスキルの全てだ。つまり、推測でしかないが……」


「レギオンを食って能力をコピー。カオスを食って混乱を糧に。他にも食ってるんだろうが……そもそも俺に殺されたという事実も、能力によって回避されていたとしたら。この異常の裏にいるのは、もしかすると……勇者ライトが、仕組んだものかもしれない」


……勇者ライト。

それが、俺が討伐すべき悪……かもしれないという。


「まあ、本当に現状からの推測でしかない。……レギオンに聞きに行こう。俺の戯言であってほしいが」

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