89話、山と洞窟
結局、荒れた山の魔物は、そんなに驚異にならなかった。
いや、ちゃんと強いんだけど相手が悪すぎた。でっかい恐竜も、あんなん地上に出たら危険すぎるんだよな、普通に考えて。
「さてさて、ボスはどこっすかねー」
「こういうときは山頂があやしいのですよ」
山頂にむかって歩いていく。
道中、結構な頻度で襲われたが、全部ふたりがなんとかしてくれたので割愛。
さて、山頂。
やはりというか、そこにはあやしいものがひとつだけあった。
「小屋っすか」
「小屋なのです」
めちゃくちゃあやしい荒屋があった。
中から、気の巡りを感じる。
小屋から、人型の何かがでてきた。
「リッチか……?」
リッチのような、骨だけの魔物だ。
多分、強い。なんと、気術を使っている。
相手のリッチが、武道の構えをとった。戦うつもりだ。
ここは正々堂々、一対一で……
「テイム。ボスでしょこの子」
「ううん、なんかむごいっす」
「かわいそうなのです」
いや、じゃあ帰ったらふたりが相手してあげたらいいんじゃないかな?
さて、魔物情報を。
オーラマスター・リッチ。
魔法の力を全て身体強化に注ぎ込み、更には気術まで極めんとする異端なリッチ。
莫大な魔力による身体強化で、肉体がない分を完全に補っている。
瞑想の時間がなにより好き。命の奪い合いより、自らの技術を高めるための試合のほうが好き。この点も、普通のリッチと比べて異端と言える箇所である。
またなんか頭のおかしそうな魔物だなぁ。
リッチって魔法使いのイメージしかないんだけど。いや、身体強化に極振りした魔法使いか。そうか。
「いい訓練相手になりそうっすねぇ」
ヒナは嬉しそうだな。うちの魔物たちも、喜ぶ子が多いだろう。
「さてじゃあ、どうしようか。まだ早いし、この子も連れていけそうだし、八層いく?」
「そうっすね、まだいけるっす」
「いくのです!」
というわけで、八層へいこう。
階段は……小屋の中か。山頂の小屋の中から階段くだったら山の中だろうとおもうけどな。迷宮は不思議だ。
地獄迷宮、八層。
そこは、洞窟だった。
「山から階段おりて洞窟……なんか普通だね」
「迷宮が当たり前のことしてると不安になるんすよね」
迷宮はもっと破天荒じゃないとこわいよね。しかも今更洞窟って……?
通路には魔物はいなかった。
が、少し大きな広場のような空間には、中ボスのような魔物が鎮座していた。
最初の広場には、強そうなゴーレム。
「オールゴーレムよりは弱いすね」
ヒナが瞬殺……とおもったけど、一瞬で五発叩き込んだらしい。つまりそれくらいには強かったと。
次の広場には、スライム。
「危ないのです」
どうやら増殖するタイプのスライムだったようで、一瞬で広場を埋め尽くすほど分裂した。
が、マリアが増える速度よりはやく殲滅していき、討伐。
これも危険な魔物ではあったな。
次は、アルマジロのような魔物。
「びっくりしたっすねー」
ヒナの飛ぶ斬撃がヒットした瞬間、アルマジロが爆発した。
反応装甲?ってやつか。打撃を食らうと、鎧が爆発して衝撃を相殺するやつだ。ついでに相手に爆風も浴びせられる。
まぁ、我々には関係ないけど。これも地上にいたら危ないよなー。
てな感じで、地上にいたら絶対やばいくらい危険で強いんだけども我々には別に大したことないな、くらいの魔物が、広場ごとに一体ずつ配置されている階層だった。
で、最後の広場。
めちゃくちゃひろいその広場には、やはりボスがいた。
「あれはさすがに強いっすよ」
「つよいのです」
そこにいたのは、トラだった。
大きくて黒い、羽衣を纏った、神々しいトラ。
凶暴そうな体躯に反して、目には知性を感じる。
邪悪な気配は感じないので、この黒は地の黒なんだろうな。
「じゃ、テイム…………あ、切れてるじゃん。どうしよ」
「戦うっすか?私はパスっすね」
「私も嫌なのです」
……帰るか。
ふたりが戦いたくないくらい強いのならテイムしておきたい。が、今は無理。次回また来たときでいいや。
ボスエリアの外でまごまごしていたので、襲われることもなく撤退。
「あのトラ、どれくらい強い?」
「ああ、うーん……黒龍くらいすかね」
「なのです」
うんうんなるほど。……龍と虎、なんかあるんか?
でも、きりの悪い八層でそんな子いるのかな……?
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