88話、強すぎてわからん


「魔王が雑魚をけしかけてくる頻度が高くなってきていてな、今いる特級だけじゃ足りなくなって来てるってわけよ。そこそこ片付けてくれてた勇者も、急に居なくなったしよう。だから、国だけじゃなくてギルドも動いてる。お前みたいなフラフラした若いガキも、放ったらかしにはできない世情なんだよ」


どうやら世界は思ったより大変なことになってるらしいな。

世界的に、大量の魔物が押しかけてくる頻度があがっているという。確かにうちにも来てる。アレが世界規模で何度も、ってことだよな。

で、最近になってようやく、魔族の存在も確認された。

強い魔族は一人いるだけでも、その敵軍の脅威度が何段もあがるという。

今のままだと、ジリ貧で人類の負け、らしい。助けて勇者様。


「てなわけで、ヒナは帰らないといけない、んだが」


「え、帰りたくはないっすよ?」


「……これだから特級は」


昔から手を焼いてたんだろう、と思う。だってもう諦めの空気だもんな。


「ま、伝えることは伝えた。俺の仕事はここまでだ。……早めに帰ろうと思うが、伝言とかなにかないか、ヒナ?」


「あー……私がここにいるのは内緒でお願いするっす。あとお土産持たせてあげるっすよ」


そういって、ヒナは自宅に向かってダッシュ。

すぐ戻ってきて、フェクターに何かを手渡した。

なにかというか、それは……


「……なんだ?」


「みりゃわかるっすよね?」


「これがなんなのかは、わかる。が、どういう意図だ?」


「お土産っすよ?」


「…………そう、か。あんたらにも聞きたいが、これ、いいのか?」


ヒナがフェクターに渡した物をみて、まぁびっくりはしたが……。


「うちには何本もあるし、ヒナが買ったものなら別に……」


「マジかよ……なんなんだこの街は。イカれてるのか」


まぁイカれてますけどね。


というわけで、私からもお土産の保存食などを持たせた。美味しいのは保証するからね。

フェクターは手に持った聖剣……聖刀をしげしげと見ながら、ゆっくりと帰って行った。また来てね。


「あ、今更っすけど、聖剣って渡していいんすかね?」


いや今更すぎるでしょ。いいけど。……いいのか?

まあ、ヒナがいつもより嬉しそうにしてるし、いいか。世話になった人なんだろう、フェクターは。

あの聖剣も、人類のために戦う人に渡ったなら、本望でしょ。





さて、60日目の昼。

今日は……なにしよう。


「マリア、今日はどうする?」


「うーーーん…………ヒナちゃんは来るのです?」


「今日は来るね」


「じゃ地獄迷宮いくのです」


というわけで地獄迷宮、七層へ行くことにした。前回と同じメンバーだ。





地獄迷宮、七層。

海、砂漠、沼地ときて、次は荒れた山だった。


「強そうなのしかいないっすね」


「大変そうなのです」


この層の魔物は、なんというか、殺意が高そうな魔物が多く見受けられる。

腕が四本のカマキリ、でかい恐竜みたいなやつ、しっぽが三本あるスコーピオン、背中から火がでてるハイエナみたいなやつの群れ、キメラだかキマイラだかそういうやつ、今まで見てきたワイバーンより一回りでかい飛竜……みんな強そうだ。


「さ、まずは戦闘っすね。全部倒せはするっすけど、どれくらいのもんか確認っす」


「なのです。さっそくカマキリさんが来たのですよ」


腕が四本あるカマキリとエンカウント。これはヒナに任せる。

両者構え、ヒナとカマキリが消えた。

金属のぶつかるような音が聞こえた、と思ったら、カマキリが真っ二つに切断され倒れていた。


「こいつ強いっすよ。一級冒険者くらいなら多分瞬殺っす。こえーすね」


いやそれを瞬殺する人間のほうがこわいけどね。でもちゃんと強いんだ、ここの魔物。


続いて、背中から火がでてるハイエナの群れとエンカウント。

次はマリアが構え。

ハイエナの群れが、爆音を上げて大砲のようにマリアに突進する。

マリアはそれを避けない。

ハイエナはすべてマリアに直撃し……通り抜けて、倒れていく。


「残像だ、なのです!」


誰に教えてもらったんやそのセリフ。

私の後ろから顔を出したマリアが、ドヤ顔している。可愛い。


「カマキリとハイエナはスピード型っすね。他はどうなのかわかんないっすけど、やっぱ強いすよ、ここの魔物」


うーん、こっちサイドが強すぎてわかんないや。

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