87話、毒の使い手
沼地エリアの魔物には、いろんな毒をもっているものが多い。
麻痺毒、睡眠毒、出血毒、こっちの世界では魔力の放出に乱れを生じさせたりする魔力毒なんてものもある。
では、この階層のボスも、毒をつかう魔物だろうと思う。
それってもしかして、ヘッグちゃんの……下位互換では?
「そろそろボスエリアっすね」
「ボスなのです!」
当然のごとく、雑魚敵相手にはなんの苦労もなく進んできた。
多分どの魔物も、地上にいたら一体でも村くらい滅ぼせるレベルなんだけど。こっちの戦闘力のインフレがすごい。普通のドラゴンが来ても私の街なら勝てそうだよな。ドラゴンって災害級よ?
さて、ボスエリアについた。
ボスは……あれは、ヤマタノオロチ?違うな、頭少ない気がする。じゃあヒュドラかな?どうだろう。
「テイムするっすか?」
「頭いっぱいなのです」
そうだな、とりあえずテイムして、七層に降りて帰ろうかな。ジメジメで気持ち悪くなってきたし。
「よし、テイム!……よく見ると可愛いかも?」
「うーん、手触りがいいっすね」
「頭いっぱい、ごはんもいっぱいなのです?」
さて、魔物情報を。
ヨマタノオロチ。
ヤマタノオロチを創った時の失敗作。地獄迷宮に封印されていた。
いろんな毒をつかう事ができる。
よっつの頭それぞれからブレスを吐くことができるため、対多数に強い。
鱗の色がとても綺麗。光のあたる角度によって、緑か紫に見える。
雑食。果物が好き。
うーん、ヒュドラでもヤマタノオロチでもなかった。
失敗作てなに?失敗すんな。
大丈夫、うちでは大事に飼ってあげるからね……。
大きさ的に、どうだろう、街の守りに置こうかな。
ハヤトとドワーフたちに預けて、毒をつかって血清だとか薬系の研究もさせよう。
「ヒュドラじゃないんすね」
「失敗作だってさ」
「魔物に失敗作とかあるんすね……神様がつくってるって事っすかね?」
ま、その辺は神話だとか聖典だとかに書いてるかもね。
さて、テイムしたし、七層に降りてから帰ろう。
ジメジメで気分悪くなってきた。
帰ってから言われたが、あの沼地は空気に毒が満ちていたらしい。なんで誰も教えてくれなかったのか……まあみんな効かないからか。仕方ないか。
さて、晩御飯はステーキと冷凍フルーツだった。
ゼストの城で、ベルゼ、アリス、マリア、ヒナと一緒に食べた。住民のみんなも城のホールで食べるのだが、席が分かれている。今日はゼストが居ないから、アリスが寂しいだろうと、我々はひとつの席に集まっていた。
「わたくしは別に寂しくはありませんわよ?」
「私がさみしいのです」
「そうね、私がさみしいのよ」
「そういうことっす」
「……まぁ、お気遣いは感謝いたしますわ」
アリスは頬を薄く赤らめ、俯いてステーキを切り始めた。照れてるなぁ。
今日のステーキは、脂身が少なくてヘルシーだけど、めちゃくちゃ柔らかい。何の肉だろうなぁ。
「冷凍ぶどう美味しいのです」
「この、なに?よくわからない果物も美味しいっすよ」
なんだろそれ……ああ、マンゴーっぽいな。こんなのもあったのか。
「やっぱりイチゴが一番ですわね」
「イチゴ大きいし甘くていいよねぇ。明日はこれでイチゴミルクつくるかな」
「わ!イチゴミルク!飲みたいのです!」
明日の朝、みんなでつくって飲もうね。
60日目。
朝イチでみんなで集まって、イチゴミルクをつくった。
私はイチゴの果肉がごろごろ残っているほうが好きなんだよな。荒く潰してミルクと混ぜる。砂糖もちょっといれよう、と思ったけど要らないな。イチゴもミルクも甘いからな。そしてミルクが金色だからなんか色がすごい。めちゃくちゃ豪華に見えるな。
と、女の子同士でわいわいしていると、街の外から魔物が伝令に来た。
どうやら、こんな朝早くから人が来たようだ。たったひとり。……一人だけ?最初の方に似たようなことがあったな。
街の入口、仮の正門の前。
一応、ヒナとマリアが着いてきてくれた。
そこには、腰に刀を差した人がいた。人だよな、さすがに。
「おうヒナ。やっとみつけたぞ」
「……あ、誰かと思ったっすよ!お久しぶりすね!」
「相変わらず、自由で能天気だなお前は。元気だったか?」
どうやら、ヒナの知り合いのようだ。
「ああ、この人はフェクター。剣士で、特級冒険者っす」
「ああ、よろしくな。さてヒナ、国のギルドから帰還命令が出てるが」
「帰らないっすよ?」
「……だよな」
あら、ヒナよりまともそうな特級冒険者かもしれないな、フェクターさん。
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