65話、アビス


48日目、昼。

今日はアビスの迷宮の十二層に向かう。

前世の記憶にあるような懐かしい田舎の風景に、魔物が馴染んでいた所だ。

今回も、私、マリア、ヒナさん、メタスラちゃんで行こうと思ったが。


「俺も行こう。面白そうだ」


という事なので、ゼストも同行。そういえば魔物と仲良くなれる能力、みたいなのがあったな。

私の街はみんな仲良いから忘れてた。


お弁当をもって、出発。最初のころはゼストにビビってたヒナさんも、今は軽口を叩くくらいには馴染んでる。いい事だ。





アビスの迷宮、十二層。

夕暮れ時のような、ノスタルジックな雰囲気を感じる。ゴブリンが追いかけっこをしている。オーガがそれを微笑ましそうに眺めたり、オークと擦れ違った際に一言二言話をしていたり。野菜をもったゴブリンが、大きな籠を背負ったオークの前をちょこちょこと歩いていたり。


「なんつーか……不思議な光景だなァ」


「これまさか倒していけってわけじゃないっすよね」


これはさすがに、手出したくないな……

一応警戒しながら、近づいてみる。

向こうもこちらに気づいたようだ。オーガが、こちらにゆっくり向かってくる。


「人間と……魔族ですか。この町に、なにか御用ですかな?もしや、魔王様の遣いの者ですか?」


めちゃくちゃ流暢に喋られたんだけど。え、なにそれ。





いろいろと、話を聞かせてもらった。

ここは、偉大な魔王と勇者が興した国の、辺境の田舎だそうだ。

大陸を統一する大きな国となったが、直近の大きな戦争で都市部は戦火に包まれたという。その戦争の時に彼ら非戦闘員の国民は、種族ごとに分かれて疎開をした。彼らはその一部で、他の場所には他の種族の村や町もあるという事だ。


「この町に来てから数年……都市部の情報は全く得られないまま、もとの場所に戻れるのか、それともずっとここで暮らしていたほうが良いのかも分からず。都市部に向かうといって出ていった住民もいましたが、それもまだ戻ってきておらんのです。……なにか、知っておられませんか?我らが国王、偉大なる魔王アビス様と、腹心であらせられる勇者ヘリオス様に限って、戦争に負ける、なんて事はないと信じておるのですが……」


……偉大なる魔王、アビス様。

アビスの王の遺志を継ぐものとして、わかってしまった。

ここは、切り取られ、閉じ込められた空間のひとつだ。





彼に礼を言い、町中を歩く。

少し考える。

魔王アビスと、勇者ヘリオスとやらは、ひとつの大陸を統一し、魔族や人間、魔物すらも共に暮らす理想郷を完成させた、のだろう。町を歩く魔物を眺めて、そう思う。

しかし、戦争は起こった。国内か、大陸外からかはわからないが、都市部が襲われた。

町にきて数年と言っていたが、実際は数年前などではないだろう。この町は、ベルゼや黒龍、ニーズヘッグなどと同じように、アビスの迷宮に封印されたものなのだ。数百年、数千年前の可能性もある。

勝ったのなら、封印の必要は無いはずだ。この町が幻や、コピーされたもので無ければ。

なぜ封印されたのか。誰が遺したのか。これは、誰の意思で……

頭が痛い。難しい事を考えすぎているのもあるが、それとは違う痛さも感じる。


「アビスの、遺志……」


アビスが、私に何かを伝えようとしているのか?私がこの世界で何をしてきたかわかっているのか?

私ならどうするか。アビスならどうするか。

私のチカラなら。アビスのチカラなら。それができる。


「この町を……貰いましょう」


「……は?」


「この町は、今から、私のものです」


私が、もう一度、理想郷をつくってやる。


瞬間、私は光に包まれた。

眼前に、メッセージが表示される。


『新たなジョブを得ました』



ジョブ:アビス

私の遺志を継ぐ者へ。

頼んだ。



「任せて」


『ユニークスキルが追加されました』



ユニークスキル:アビスの遺志を継ぐ者

アビスが封印した者を、全て無条件で支配下に置くことができる。



ようやく、心がアビスに認められたような気がする。


「タキナ、お前……」


「頭……なのです……」


「え、なに?……嘘!?ま、えっ!!?なんで!?」


ゼストとマリアが指さす先。自分の頭を触ってみた。


…………角、生えてるんですけど!??!?

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