63話、魔大陸


47日目。

朝ごはんを楽しんで、街の見回りをして、朝が過ぎる。

昼前に、今日はなにをしようか、と考えていると。


「タキナ、魔大陸いくか」


ゼストから誘いがあった。というわけで、今日は地獄迷宮の仮五層から、魔大陸だろう場所に向かうことにする。

そういえば、鳥系の魔物をテイムしたが、不要だったようだ。ゼストは触れているものを浮かせる事ができるため、私を安全に地面につれていける。マリアも自分で飛べるし。あの鳥は昼の哨戒班に配属だな。

というわけで、私、マリア、ゼスト……と、着いて来たがったベルゼの四人で、地獄迷宮へ向かうことになった。ベルゼも当然飛べるんだよなぁ。





「おお、魔大陸の匂いだ」


「匂いなのです?」


「わかりますよ、故郷の香りに近い。懐かしいですねぇ」


古い魔族にはなにかがわかるらしい。魔大陸に到着した。

まずは、見えてる村に向かおうと思う。

先頭はベルゼ。一番人当たりが良さそうなので。あと、結構体格がよくて舐められなさそうなので。一番強いのはゼストっぽいけど。


「あの村は……ああ、普通の村だな。全く何事もない普通の村だ。魔大陸で確定だろう」


「魔法的防御もない、罠もない……長閑な田舎ですね。建物も畑も、少し新しく感じますが。防壁もないということは、魔物も出ないのでしょうか」


「となると、ド田舎なんだろうな」


魔大陸でも、やはり魔物というのは敵性生物のようだ。


村に近づく。

めちゃくちゃガタイのいい、かっこいい角の生えた男性が、こちらに近づいてくる。


「高名な方々とお見受けする。こんな辺鄙な村に、なにか御用ですかな?」


高名……まあたしかに、高名は高名だけど。どういう……

と思っていると、ゼストが「魔族は魔力が高いやつが偉いって文化があるんだよ」と教えてくれた。

なるほどたしかに、ゼストもベルゼも、マリアも魔力が凄い。私はなんだ、荷物持ちにでも見えるか。


「そうですな、旅の者とでも思っていただければ。少しこの辺りのことをききたくて立ち寄りました。物資をいただくつもりではございませんので、よろしければ、お話を聞かせていただけると幸いでございます」


ベルゼが丁寧に応対する。


「これはこれはご丁寧に。話であれば、私が。これでも、ここの村長ですので」


ということで、あらためて村長さんと挨拶を交わし、お話を聞かせてもらう事になった。





「つまり、この村は、新たな開拓村、というわけですか」


「ええ、そうです。我らが王、レギオン様は、この大陸を統一してからは、魔族の住める領土を拡大する政策を取られております。ここは数ある開拓村のうちの、つい最近開拓が始まった土地となります」


めちゃくちゃ重要そうな話がバンバン出てきたんだけど。

まず、ここは魔大陸で間違いない。

そして、この大陸を統一した魔王がいて、その名はレギオン。……うちの大陸どころか世界中で悪さしてるのもレギオンだったはずだけど。同一人物か?

大陸中の魔物は、見つけて報告すると、魔王レギオンの分身体が捕獲しに来てくれるため、魔物による被害はほぼ無いという。なので防壁もいらないと。我々の知るレギオンの能力と一緒だよね。

村長さんがつい先日、開拓村を任される時の任命式で一度見たというレギオンは、とても気が強そうな美少女で、誰にでも分け隔てなく優しい人だったという。ゼストの記憶にあるレギオンも、その通りだという。なら何故、世界中で侵略行為をしているのか。


「というより、本当にレギオンが侵略しようとするなら、大規模な戦争じゃなくて暗殺やら扇動やらで内部からぶっ壊すんだよな。見た目のスマートさと一緒で、やり方もスマートだったんだよアイツは。たった数万の雑魚を投げつけるだけの、品の無いマネはするはずがないんだよなあ……」


ゼストはレギオンに詳しいようだ。

ゼストがこれだけ高評価を推しているんだから、実際そうなのだろう。

ではなぜ、あのような野蛮な侵略行為がなされているのか……


「どうにも厄介な雰囲気だな……」


「なのです……」


こっちのレギオンとあっちのレギオン、別のものとしか思えないな、と、ゼストが零した。

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