62話、しんか


46日目。

今朝は胡桃パンとフルーツオレをいただいた。

魔の森の調査を行っているエルフ達だが、植生の調査のついでに食べられそうなものは持って帰ってきてくれる。その時に見つけたという胡桃だ。

果物や木の実の類は、見つけ次第、魔の森の縁のほうに植え替えている。そこも成長が早いため、近いうちに胡桃もいつでも食べられるようになるだろう。


「胡桃も美味しいのです」


「でしょ?胡桃パン好きだったんだよねー。また食べれてよかった」


バターを塗って、熱されたメタスラちゃんで軽くトーストする。これも美味しい。メタスラちゃん、魔法の技量がめちゃくちゃ上がってるんだよね。いろんなところで助かる。


そういえば、他の魔物たちも、いろいろ変わったなぁ。

最初の方に捕まえた、オーク、サソリ君、マリなどは、今はもう種族すら変わっている。

オークはアグニ・オークに。サソリ君はトキシックスコーピオンに。マリはリッチ・ゲフリーレンに。

それぞれ、一際強力になった。

自分より強い魔物が近くにいると、それに負けないように強くなろうとする習性がある、と前に言われていたな。たしかにそのようだ。

ゴールデンホルスタインとかマジックトレントも、強くなろうとするのかな……?





昼はアビスの迷宮に向かおう。

今日そこ十二層に降りる。昨日のうちに、階段のありそうな場所は電波塔の上から目星をつけていた。

メンバーは、私、マリア、ヒナさん、メタスラちゃん。

アビスの王と言われるからには、アビスの迷宮になにか関係のあるものなのだろうし。いろいろ知りたいなと思うので、はやめに攻略を進めたい。


「いくっすよ、アビスの王」


「その呼び方やめてください」


「王様なのです!」





アビスの迷宮、十一層。

ビル群を進む。ワームはほとんど出現しなくなっている。

昨日のうちに目星をつけていた場所にまっすぐ向かう。


「ここっすか?たしかに怪しいすね」


「駅は怪しいよねやっぱり」


「えき?なのです?」


大きな建物の、左右から線路が伸びている。

電波塔の上から見た時は、それは四方を囲む山に向かって伸びているのが見えた。

さすがに電車に乗って下層へ、ということでは無いだろうけど、別のエリアへという事なら、ここが一番それっぽいと思った。


「で、やっぱりボスがいたねぇ」


「強そうっすね。どうするっすか?」


さて、目の前には、カマキリがいる。

鎌が、向こうが透けるほど薄い。が、魔力の膜が見える。魔法武器のようなものなのだろう。切れ味すごいんだろうな。

普通のカマキリだと弱そうな腹部も、硬質な羽で守られている。

攻撃特化でありながら、防御も最低限は確保しているようだ。

カマキリの居る場所のうしろのほうには、階段が見える。

どうしよう、テイムするか?


「うーん、そうね……確保しておこうかな。テイム!」


「テイムなのです!」


テイム完了。魔物情報をみる。



ボイドマンティス。

硬質化と幻影の魔法を使える魔物。攻撃も防御も、この魔法で強化できる。

鎌は普段は折りたたみ、傷つかないように隠しているが、硬質化するとアダマンタイトすら切れる刃物になる。

硬質化をしていないときのお腹はぷにぷに。

綺麗好き。



ぷにぷに。たしかにぷにぷにだ。

この子はゴーレム討伐班に配属かな?アダマンタイトを切れるそうなので。


「降りて帰りますか」


「十一層、結構いろいろあったっすねー」


「広かったのです!」


という事で十一層、クリアだ。


階段を降り、十二層へ。

ゲートの登録を済ませ、ちょっとだけ、どんなエリアか見に行く。


十二層は、田畑が多い田舎の風景だった。


「……オークがはたけ耕してる」


「ゴブリンが追いかけっこしてるっす」


「オーガが屋根直してるです」


そこは、日本の昔ながらの田舎だった。

記憶と違うのは、人間じゃなくて、魔物が生活しているという所だけだ。


「これ、討伐していくの……?」


めちゃくちゃ嫌なんだけど。倒したくなさすぎる……

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