55話、ピックアップ


「本日よりよろしくお願いいたしますわ」


「ああ、俺はいいが……魔族と一緒に住む訳だが、大丈夫か?」


「タキナ様のご友人なら、悪い魔族ではありませんわよね?」


「……いや、おう、そうか」


42日目、夕方頃。

アリスを連れ帰って、挨拶周りを済ませ、最後にゼストの城に住まわせる許可をとりにきた。

アリスはクラーケンで慣れたのか、他の魔物たちにも臆する事無く挨拶を交わしていた。すごいな。

ゼストにはアリスの居た場所の事も話した。王族なので慣れるまで城に住まわせて欲しいというのも、理解を示してくれた。そのうち家を与えたいとは思う。

仕事はどうしようかと思っていたが、


「街の書類関係は全て任せてくれてもよろしくてよ?わたくし、事務作業はとことん速いんですの」


との事なので、街の帳簿やらなんやらは任せてしまおうかな。金の管理はドーグとゼストに任せていたからなぁ。専門家がきたならそっちに任せてしまうべきだ。


そして、アリスの言っていた、勇者の末裔に授けられたスキル、について教えてもらった。


「王位継承者に受け継がれる勇者のスキルのうちのひとつで、わたくしが授けられたのは、『ガチャ』ですの。一日に一度だけ、ガチャ神様に祈りを捧げると、思い浮かべたものに類似したものが貰えるんですのよ。食べ物なら食べ物、宝石なら宝石、ですわ」


ガチャときた。

王位継承者には、勇者が持っていたスキルのうちひとつが授けられるという。アリスの父親は『攻撃必中』を持っていたという。スキルひとつでもめちゃくちゃ強いな、勇者……

で、隠されていた一週間は、ガチャで食料をお願いして食べていたようだ。堅パンひとつから、王家のフルコースまで、ランダムで出るようだが、自分が知っているものしか出ないという。


「この街で見識をひろげれば、わたくしの能力もまたさらに磨かれるとおもわれますの。ふふ、あらためてよろしくお願いしますわね?」


「こちらこそ、よろしくね。必要なものがあれば、ゼストかドーグに言ってね」


ちなみに、今日のガチャはまだ使ってなかったので、使うところを見せてもらった。

膝を折り祈りを捧げるアリスの前に、光があつまる。

光が収まったとき、そこには、ステーキが置いてあった。


「今日はやや当たりですわね」


アリスはそれをペロリと平らげた。この調子だと、この後の歓迎会も余裕そうだ。

料理、もうちょい多めに用意してもらっておこうかな。





せっかく城に来たし、もう今から迷宮なんていける時間じゃないしという事で、今日のテイムは地下ですることにした。


檻を眺める。


「可愛い子がいいなぁ……お、この子は」


かわいいの、居た。

カラスかな?


「はいテイム。よろしくね!」



ヤタガラス。

三本の足が生えた烏。あちらのものとは本質が違うが、こちらも伝説に出てくる烏である。

光魔法の上位、太陽魔法を使える唯一の魔物である。

その昔、この魔物をテイムした男が、太陽魔法を使わせ悪の吸血鬼を討伐した、などの伝説が幾つも残っている。

そこそこ大きくて暖かいので、抱き枕にするのもよい。



「ヤタちゃん、よろしくね!君は今日からマリアの抱き枕だ」


マリアへのプレゼント、ゲットだぜ。





歓迎会では、多くの肉料理が供された。

アリスはとくに油淋鶏にハマったようだ。調理班も鼻高々に喜んでいる。私も油淋鶏すき。

ビーフシチューにはちょっと及び腰だったが、一口食べたらあとはもう飲む勢いで食べてた。勢いがすごい。シチューは飲み物だった。

ステーキはいろいろな種類の魔物肉が使われているが、それもそれぞれを一枚ずつ平らげていった。他の料理も、しっかり全部味わった。お腹どうなってるんだろう。それも勇者のスキルのひとつでは?

最後のデザートのプリンとクレープには、年相応の反応を見せてくれた。マリアと並んでクレープを食べてる姿は、とても美しかった。はやくカメラを開発してくれ。


ひとまず、アリスも街に馴染めそうでよかった。ガチのお姫様だから不安はあったが、杞憂だったようだ。

クレープが美味しい。

明日の朝ごはんはおかずクレープにしようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る