54話、おひめさま
42日目。
今朝はフルーツクレープを食べた。朝からこんなものを食べられるなんて、私も出世したもんだぜ。
「生クリームふわふわなのです」
「調理班、ほんっと美味しくつくるよねー」
この土地と調理班に感謝だ。
この前、ゴールデンホルスタインを魔物生成で増やしておいたおかげで、もともと多かったミルクの生産量が倍加し、さらにいろいろな乳製品がつくられるようになった。人手というか骨手が足りないからスケルトン増やしてくれとも言われた。リクもう一体増やすかな?
朝ごはんの後、いつも通り街を眺めて、昼前。
クラーケンに呼ばれた気がしたので、扉から海に向かうことにした。
マメちゃん関連の話かな?それかまたなにか拾ったか?とにかく向かおう。
海。砂浜。
作業場がひとつあり、そこでは海塩の生産を行っている。天日ではなく、濾過と煮物で採取している。雨降らないから天日でも試してはいるんだけどね。
さて、クラーケンが呼んでいる。
「どしたの?……乗ってって?マジ?」
どうやら、沖に用事があるようだ。
「島だね。なにかあるのかな?」
クラーケンで一時間ほど航海すると、島に着いた。大きめな島の気がする。
クラーケンも地上に上がってくれたので、目的地に向かってさらに進む。
島の真ん中、開けた窪地に、扉がポツンと置いてあった。
「また扉……」
これもまたどこかに繋がっているパターンだろう。
入ってみる、か。
「おじゃましまーす……うわ、綺麗」
扉の先は、綺麗な部屋だった。貴族や王族の私室、といえばこういう部屋だろうという感じだ。
「誰かいますかー……?」
「どちらさまですの?」
わ、びっくりした。可愛い声。……ベッドからか?
「扉が開いてますの……じいの言うとおりですのね。貴方、助けに来てくださった勇者さまでしょ?」
どうやら、何事かありそうだ。
「あらためまして、勇者ではないですけど、タキナです。偶然扉をみつけて、どこに繋がってるか確認をしにきました」
「あら、勇者様ではございませんのね?伝承のとおり、黒髪で聖気を持っておられましたから、きっとそうかと。わたくしは、カトレア王家第一王女、アリス・カトレアでございますわ。……ああ、いや、もしかすると、今はもう、女王なのかもしれませんけれども」
お、なんか重い空気になったのを感じたぞ?……そんな気はしたけども。
「この国は先日、魔王軍によって攻め入られました。多分、生き残っている人間は少数……わたくしの家族たち……王家の者も、みな戦に向かっておりましたから、わたくししか残っていないでしょう」
なるほどなるほど。どこにあるかわからないけどこの国も魔王軍に負けたのか。思ってたよりもっと恐ろしいかもな、魔王……
「わたくしは、カトレア王家の最後の一人として、この扉のある部屋に隠されました。もう一週間ほどでしょうか……勇者の末裔であるわたくしに授けられたスキルにより、飲食はどうにかなっておりましたけれど、このままでは如何ともし難く。執事長が言うには、この扉は開くべき時に開く勇者様の秘宝。執事長を信じ、これが開く事に賭けるしかない、と思っておりましたの」
それで、私が開けたと。
助けを求められてるわけだから、連れ出せばいいのかな?この部屋の外はどうなってるんだろう。
部屋の窓から外をみる。ここは、塔の上の方のようだ。下の方に魔物が群がっている。扉が魔法かなにかで守られているのだろう、まだこの塔には入ってこれないようだ。
そして、見える範囲の城の敷地内は、全て魔物で埋め尽くされている。流石に、これは無理かな。
「逃げる、という事でいいですか?国をとりかえす手伝いとかはちょっと難しいかもしれないですけど」
「ええ。……どこへなりとも連れて行ってくださりませんか。カトレア王家は、私が滅ぼさせません」
というわけで、連れて帰ることにした。
島に帰る。扉は、アリスがくぐると消えてしまった。
「……帰れませんのね」
どこの大陸かもわからなかったし、帰す事は出来ないだろう。残念だが。
さて、イカちゃんが目の前で待機していてくれた。
「おまたせ、この子も連れて帰るからね」
アリスがイカちゃんを見る。ヒッ、と聞こえたが、叫ぶことはなかった。胆力がすごい。私なら泣き叫ぶね。
「せ、説明してくださりませんこと?」
「あー、えっと、この子は私がテイムしてるの。大丈夫。仲間よ。今から帰るけど、街にいる子もみんな仲間。驚くだろうけど、安心して大丈夫よ」
「テイム……テイマーですの?珍しいですわね」
珍しいのか。やっぱりどの国でも最弱なのかなぁ。ちょっと悲しい。
「さ、乗って。イカちゃん、ちょっとゆっくりおねがいね」
「の、乗るんですの?……あ、意外と安定しておりますのね」
さて、帰ってみんなと顔合わせだな。
どこに住ませるか……やっぱゼストの城を借りるか?
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