44話、直心是道場


34日目、昼過ぎ。

ゴールドはドワーフとエルフとの商談に移ったので、私は暇になる。

今日はどこでなにをするか……


「地獄迷宮か、アビスの迷宮か……それか山頂?」


「アビス、さっさと十層いくっすか?」


「うーん、とりあえずそうね、先にキリのいいところまでって言ったし。今日もアビス行こう。八層目だね」


「めいきゅうなのです!」


ヒナさん、マリア、トロル君、メタスラちゃん、私の五人で行く。やはり安定感が違う。マリアは社会見学枠だ。





アビスの迷宮、八層目は、森だった。

魔の森の山奥のように、とてつもなく太い幹を誇る木々が、相応の間隔で生えている。

自分たちが小さくなったかのような錯覚を覚える。


「大きいわねぇ」


「木なのです?」


「木……のはずっすよね。デカすぎて……」


木だけでなく、出てくる魔物も大きかった。


まず見かけたのが、ヘラジカのような魔物。

ヘラジカといえば、前世でも大きな動物として知られていたが……目の前にいるのは、高さが四階建てほどある。敵対はしていないが、圧が強い。


続いて見かけたのは、イノシシのような魔物。

二層にも似たようなものがいたが、こちらのはサイズが当然おかしい。高さは二階建てほど。こちらも敵対はしていないが、突進されたら大変だ。家が飛んでくるようなものだ。


リスや小鳥なども見かけた。小鳥と言っても、他の魔物たちと比較して、の話だが。当然のように相応に大きい。


しばらく奥へ進む。

今のところ、魔物から敵対されていない。居ないものとされているのか、そういう性質なのかはわからないが。


「なーんにも起こらないっすねー」


「おさんぽなのです」


「そういう層なのかなあ」


まだまだ進む。やはり魔物は居るが、敵対はされない。不思議な感覚だ。


結局、下層への階段まで到着してしまった。

八層はクリア……なのか?


「ひとまず九層のゲート登録だけして、戻ってきて探索し直そうかな」


「そっすね、さすがになんかあるでしょ」


「もり、気持ちいいのです」





ゲート登録を済ませ、階段を逆戻りする。

来た方向では無い側に向かおう。


「マリア、右か左、どっち?」


「ひだりなのです!」


左へ進む。


しばらく進む。

魔物があまり出なくなってきた。

なにかある、気がする。


「魔力、濃くなってきてるっすね」


「未だにわからない……」


どうやら魔力が濃くなってきているようだ。私はいまだにそういうのがわかっていない。あまりにも濃いとさすがにわかるのだが。


また暫く進むと、魔物だけでなく、木々も少なくなってきた。


そして、木々が無くなるほど進むと、その先に、ひとつの建物があった。


「道場……?」


「道場っすねぇ。……近寄りたくないっす」


「こわいのです」


ヒナさんとマリアだけでなく、魔物たちも進みたがらなかったので、一人で道場に向かってみる。


「おじゃましまーす……」


中は、畳の間だった。

奥の壁には、掛軸が飾られている。


「気術、かな」


ふと、畳の間に視線を戻す。

さっきまでいなかったはずの人がいた。

ゾンビ、いや、ミイラのような。

道着を着て、坐禅をしているようだ。


ゆっくりと、こちらを見た。


あっ。


「……あれ、なんともない、な」


今、殴られて、死んだ、ような気がした。

しかし、生きている。……生きているはずだ。


道着を着たミイラが、まだこちらをみていた。

ふっ、と、姿が消え、代わりに、木箱が現れた。


「宝箱かな……?え、なんだったんだろう」


条件はいまいち分からないが、なにかしらをクリアしたのだろう。さっきの殴られた気がしたやつかな?


宝箱の中身は……ガラス玉、かな?

魔法っぽいなにかを感じる。オーブ、ってやつか。

ひとまず、みんなの元に戻ろう。

一体、なんだったのだろうか……


みんなと合流。ガラス玉をヒナさんに見せてみる。


「うおあ……スキルオーブっすね。見るのは二度目っすけど、これ一個で最低でも豪邸が、最高だと城が建つっすよ」


どうやら超レアアイテムらしい。

持った状態でスキルの情報を得ようとすれば、得られるスキルがわかるそうなので、ひとまずみてみよう。



スキルオーブ『気』

気を操る術を得る。



「どういうこと?」


「わかんないっす」


「きなのです」


よくわからんが、こういうよくわからん説明が短いものは強いものだとテンプレ相場が決まっているのだ。

というわけで使用。


「し、城代が」


「城ならもう街にあるでしょ」


使ってみたが、確かにスキルを得た感覚はある。

が、スキルの詳しい使い方は……


「気ってなにさ」


「いろいろ試すしかなさそうっすね。剣術とかそういうわかりやすいのならよかったんすけど」


「き……気を練る、って聞いたことあるのです」


ねる……ねるねるねるね……なんとなく、うっすらわかるような感じがした。


「なんだろう、こう、身体中に巡る魔力とは別の、生命力?みたいなものを……練って集めて……こう!」


轟ッ!と風を切り、波動弾が彼方へ飛ぶ。

とおくで、爆音が聞こえる。


「……私、なんかやっちゃいました?」


「あてられなくてよかったっす……」


「危ないのです」


どうやら、気とやらの強さは、体力に依存するようだ。そんな感じがする。

ということは。


「私のためのスキルじゃんこんなの……」


私、また都合よく強くなっちゃいました。

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