30話、難破船



25日目。

朝ごはんは、女奴隷あらため調理班が担当してくれた。

……うん、美味しい。美味しいけど、悔しい。私も料理できるつもりだったんだけどね、やっぱ日本の調理器具有りきだったんだな。

ドワーフたちが、肉の加工品をつくろうとしてくれているため、それの試作品をいくつか食べた。ボア系のベーコンが美味しい。まだまだ改良するそうなので、楽しみだ。


今日の魔物生成は、炎のリッチ・マジシャン。

ドワーフたちからの需要が高いため、一体だとちょっと過労が過ぎるということで。いままで一人でよくがんばったね、ヒマリ。今日から二号が一緒だよ。


今日はまた迷宮にいこうかな、と思っていたのだが、イカちゃんが呼んでるような気がしたので、荒野の扉から海へ向かうことにした。なんだろうか。珍しい魚でも捕まえたかな?

せっかくなので、午前ルーティンの街の散策はせず、すぐにカイちゃんに乗って荒野に向かうことにした。


さて、海に来た。





「あー、なるほどね」


目の前にイカちゃんが居た。その腕に、壊れた船をかかえて。


イカちゃんの言うところによると、壊したわけじゃくて、壊れてるのを見つけて持って帰ってきたそうだ。まあ、それはいい。

問題は、中に人が入ってるという事。まあ人を助けたといえばそうだが、船が破損していて生存の可能性が低い状態とはいえ、クラーケンに攫われた形になる。不安も不安だろう。どうしようか。


「ま、会うか……」


船に近づく。


「誰か、いますかー!おはなしできる人、出てきてくれませんかー!」


船の外から声をかける。

浜辺に置かれた船から、人が……人か?一人出てきた。

背が高くて、顔が整いすぎている女性だ。生きてるとは思えないくらい美しいが?嫉妬すら起こらないほどの美だ。……そして耳が長いな。


「人間……か?クラーケンの巣にでも運ばれたかと思ったが……我はエルフ氏族、サンガの王、ブラインと申す。少し、説明をいただきたいのだが……」


混乱はしているらしい。まあそうか。


ひとまずクラーケンは安全だと伝え、ここがどの辺かの説明をする。

まあ正確にはわからないんだけどね、ここが何処かなんて。


エルフの王、ブラインさんのほうの経緯も聞いてみる。

どうやら、王と数人の側近のみで航海をしていたそうだ。怪我をしたり意識を失ったりはしているが、船の中で全員生きてるらしいので、それはまあ良かった、のか。


「元住んでいた大陸……大陸と言っても小さなところだが、そこが全て現魔王によって支配されてしまってな……住めるところが完全に無くなる前に、我々エルフは脱出を試みたのだ。結果は、こうだが」


エルフ以外にも、獣人やドワーフ、人間の重要人物達も船での脱出を試みたそうだ。それらはどうなったかはわからないそうだが。

まあつまりは、帰るところのなくなった人達、かな。


「大陸内で全てが回っていたのでな、ほかの大陸などに伝手はない……どうすればよいのか……」


となると、私に出来ることはひとつ。


「じゃ、私の街に来ますか?働いてさえくれれば、住民として受け入れます。……ちょっと不思議な街ですけど」


「……よいのか?それは、存外の喜びだ。そうか、我らが氏族はまだ、生き延びれるかもしれないのか」


ものすごい感動していらっしゃる。人助けはする物だな、やっぱり。


イカちゃんに呼んでくれてありがとうと伝え、ひとまずひとりで街に戻る。

担架代わりの道具と力自慢のドワーフを20人ほど連れ、また荒野から海に。

エルフの王とその側近10人を運び、街に帰る。





「おお、なんというか……環境はエルフにとってとても良い、な。うむ。……アレらは大丈夫、なのだろうな?」


どうやら土地はお気に召したらしい。

魔物には驚いていたが、まあそのうち慣れる。調理班も初日で慣れてたし。……アレは諦めか?

ひとまず家が完成するまではゼストの城に滞在してもらうことにした。ゼストは賑やかになった城の中をみて、ちょっと笑ってた。寂しがり屋さんめ。


10人のエルフは、王を含めとても優秀らしく、特に森の中では右に出るものは居ないと。魔の森でもやっていけると言ってきた。

王以外の皆が復帰したら、森の調査と素材集めを任せようかな。


昼はひとまず、ブラインを含む主要人物で食事会をした。どうやらエルフは肉も食うらしい。美味しいと言ってくれたのでニコニコだ。あとこれも意外だったのだが、ドワーフとも仲は悪くないらしい。木工と石工でむしろ元々仲が良いそうで。うちでも上手く仲良くやってくれそうだ。


「エルフ氏族、サンガ族の王として、礼をいう。我々に、未来を与えてくれて、ありがとう。……我が氏族は、タキナ殿に、この街に、生涯の忠誠を誓おう」


ブラインさんは、恭しく頭を下げた。

……エルフたちの生涯をかけた忠誠、重みが凄いな。

これからも、街のために頑張らないとな。

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