29話、激レアモンスター



24日目の夕方。アビスの迷宮二層から食糧調達班が帰ってきた。


食糧といえば牧畜関係のものは持って来れないのかとゴールドに聞いたところ、今回は実験的に数匹の鶏をもってきてドーグにわたしたので、それで次回まで様子見するそうだ。

魔の森付近の土地で普通の動物がどうなるかがわからないので、無駄にならないようにゆっくりやっていくつもりらしい。まともな道もまだないし、運ぶにもストレスだろうからなあ。当分は二層で間に合うだろうし、持ってきたとしても軌道に乗るまで長いし、ゆっくり確実にでいいだろう。


で、その二層から帰ってきた魔物の中の一体が、私に報告を持ってきた。


金色に輝く牛が一頭、発見された。

ほかの肉のための魔物と明らかに様子が違うため、接触せずに報告に帰ってきてくれた。えらい。


「金の牛……昔に絵本でなら見たことあるっすよ」


ヒナさんが言う。


「なんでも、金色の牛乳が出て、それを弱った動物たちに分け与えてみんなで幸せに暮らす……みたいな絵本だったっす」


それは、ひとまず確保せねば。

……あれ、でも動物じゃなくて魔物なんだよね?迷宮に湧いたし魔物だよね?





というわけで日が沈む前に迷宮二層にきた。

報告をくれた魔物に案内させ、牛の元へ向かう。

半時間ほどで、見かけたというところについた。


「うわ眩しい……金色だ……」


「すげぇっすね、マジで金の光沢だ……」


牛がいた。金色というか、金メッキかのような光沢だ。そして大きい。普通の牛より大きいのか、体長は2mちょっとくらいありそうだ。


「よし、テイム!……魔物なんだねアレ」


さっそくテイム完了。情報を見てみる。


ゴールデンホルスタイン。

金色の牛。めちゃくちゃ目立つ。伝説で語られるほどに珍しく、この一頭で百万の民が乳にありつけるという伝説もある。

魔力の篭った植物を食べ、魔力の篭った黄金色の牛乳を出す。この牛乳は状態異常抵抗を大幅に引き上げ、万病に効く万能薬としても伝説になっている。

大人しく慈悲深い。


めちゃくちゃ良さそうじゃね?

というか牛乳。ドワーフ達にお願いして、チーズとかバターとかもつくってもらいたいな……ていうかちょっとまず飲んでみるか、牛乳。


「牛ちゃん、ちょっと頂戴ね……ん?え、うま!え!めちゃくちゃ美味い!牛乳てこんなに美味しかった!?」


「わ、私も飲みたいっす!ください!…………うっわすご。嘘でしょ、もうほかの牛乳飲めないっすよこれ。どうするんすか」





牛ちゃんを連れて帰宅。とうぜんドワーフに囲まれる。チーズとバターと、あとは生クリームとかも作れるようにしてくれよな。みんなにちょっとずつ金色の牛乳を飲ませ、やる気を出させる。ドワーフはさっさと開発済ませるぞといって散っていった。


商人のゴールドにも見せてあげるか。好きそうだし。


「ゴールデンホルスタイン……おお、凄いですな……!実物ははじめて見ましたよ!そしてこれが産み出される牛乳。……ああ、美味しい!仮にも高位貴族である私ですら、このような極上の牛乳は飲んだことありません!これは高く売れ……いや、そうだな、これ自体ではなく加工品を販売すれば、原料を確保できない他所では類似品をつくることができない。競合を減らすなら原料である牛乳は独占しておいたほうが?いやだが結局はここでしか手に入らない牛乳でなにかを開発されたとて……おっと、申し訳ない、金の匂いがしたのでつい!」


まあ、たしかに、牛乳はいっぱい出せたとしてもこの一頭からしか出ないわけだし、鮮度とか考慮してもチーズとかバターにしてから売り出した方が安全でもあるか。

加工品が余ったらゴールドに売ると約束し、とりあえず鮮度とかの様子見のために金色の牛乳自体も空いた樽に詰めて渡す。ゴールドは大層喜んだ。よかった。


新しく楽しめる食材が加わったので、今日はまたパーティだ。

今日は鍋ではなく、シチュー。ゴールドが持ってきた小麦粉やら野菜やら、二層からの鶏肉やら豚肉やらを、黄金の牛乳と一緒に煮込んだ。

金色のシチュー。輝いている。


ドワーフが音頭を取る。


「イカれた住民と魔物の街、『アグニ』の未来に!乾杯!」


『乾杯〜!』


乾杯!…………え、街の名前アグニなの!?聞いてないけど!

……まあいいや。シチュー美味しい。

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