閑話2、勇者であるという事



勇者イサムとそのパーティは、この20日間で、様々な困難を乗り越えた。


低難易度とはいえダンジョンを攻略した。

村を襲ったというウルフの群れを討伐した。

鉱山に巣食ったゴーレムを排除した。


そして、魔王軍に襲われた街を、防衛した。





魔王軍が来る。

そう聞かされて、イサムは怖気付いた。が、それは表に出さない。出せない。勇者は、怯えないので。

正直、強くはなった。それこそ、人間には到底なし得ない速度で成長している。

だが、成長しているだけだ。最強になった訳では無い。

まだまだ上がいる、というのは、この公爵領での修行で、嫌という程知っている。


我々勇者パーティに任せられた役割は、旗頭になる事。戦力として使うこともできたが、こんなところで浪費するわけにはいかないという事だろう。勇者であるイサムは戦場での士気を高めるために前線の安全な位置に。メンバーは後方での支援、街の中の警戒などを任された。


公爵に渡された原稿を暗記し、兵士たちの前で演説。士気を高める。

魔王軍、数多の魔物は、明日にでも街を襲う。





目の前で、兵士たちが散っていく。

踏み潰され、噛み砕かれ、ちぎり飛ばされていく。

相手の魔物も、こちらの攻撃で同じように削れていく。

目を逸らしてはいけない。吐いてはいけない。泣いてはいけない。勇者として、見届けなければいけない。


しばらくすると、合図とともに前線の兵士たちが急いで撤退する。

魔王軍に向かって、公爵領が誇る決戦兵器が打ち込まれる。

とてつもない熱量が魔王軍を襲う。随分と離れたここにも、熱が伝わってくる。

決戦兵器たる光線は、前線の敵全てを塵に変えた。

魔王軍が撤退する。


前線は熱線によりまっさらだ。

魔王軍のみならず、こちら側の兵士の死体すら残っていない。圧倒的な破壊力だった。


勇者イサムは、勝利を宣言した。

我々は勝ったのだと。魔王軍を退けたのだと。街を、守ったのだと。


……脳裏に、散っていった兵士の姿が張り付いている。

これが、勇者がやらなければならない事なのか。

犠牲から目をそらさず。しかし勝利を掲げて。前を向くことしか許されない。それが、勇者なのか、と。


その日の夜は、戦場に出た興奮も重なり、一睡も出来無かった。





敵が様子見の雑兵とはいえ、そして直接戦闘参加していないとはいえ、事実として魔王軍を退けたことは、勇者に箔をつけるにはとても良い宣材になった。


各国からの支援も増やすことができたらしい。

勇者本人への支援金は、全て魔王軍に襲われた地域へ寄付した。

どうせ、勇者たる我々には、金なんぞあっても使う暇などない。装備やら必要なものは国が用意するのだし。


遊んでる暇があるなら、もっと強くならないといけない。

目の前で失われる命を、ひとつでも減らすために。


勇者イサムは、その日から、真に『勇者』として覚醒していく事になる。

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