16話、遺されたモノ
13日目。
今日もカイちゃんに乗って、荒野を超えて砂漠に来た。
……なにも、ない。
魔物もいない。今まではサソリ君の仲間たちを見かけることがあったが、今日はマジでなにもいない。ワームらしき砂の畝りもない。
「そういう日もあるか……もうちょっと進んでみようか」
カイちゃんにお願いし、もうしばらく飛び進む。
暫くしてふと、視界の先が気になった。
「カイちゃん待って。……あっち、なんかある?蜃気楼かな……行ってみよう」
見渡す限りなにもなかったのだ。少しの違和感でもなにかの手がかりになるだろう。
そうして進むこと数分。
……急に、目の前に、城が現れた。
「……は?」
なにも無かったはずの空間に、城がある。
少し引き返して振り向くと、無い。
少し進むと、現れる。
魔法かなにかで隠されているのだろうか。
「めちゃくちゃ気になるけど、こういうのって大抵危ないよね……いやいいや、暇だし行こう」
私は、その城を探索する事にした。
入口は大きく、カイちゃんも軽く入れた。
外観は少し寂れていたが、中は清掃の行き届いているようなピカピカの状態だ。
……なにかいるのだろう。気をつけて進もう。
しばらく探索した。
各部屋にある調度品などはあまり触れず、確認だけした。高そうだったから……
今のところ、なにもいない。不思議なほど静かだ。
しかしこれだけ綺麗なのだから誰かが手入れしているはず、とおもうが、これもなにか魔法で保存されているだけなのだろうか。
あとは、最後の一部屋だけだ。
一番豪華な扉。なんか開けちゃ行けない気もするけど、最後だもんね。……いや、地下への扉はあったけどそっちは怖いから知らない。無かったことにする。
意を決して、開ける。
中には、美少女が浮いていた。
「は?」
浮いている。そして多分寝ている……?
呆然と眺めていると、美少女が目をあけた。
「なんだ、もう朝か?良く寝た気はするが………………あ?お前誰だ?」
美少女が着地。こっちを見つめる。
ちょっと冷や汗。多分、強い。
「私は瀧奈。一般人よ。あなたは?この城の主様?」
「タキナ……タキナか。日本人の名前だなオイ。勇者様か?俺はゼスト。大魔王ゼスト様だ。……ああ、元大魔王か」
どうやら目の前の美少女は、自称元大魔王様らしい。道理で圧がすごいわけだ。初日の私なら圧で死んでる。
「私は勇者じゃない。ただのテイマー。日本人なのはそうだけど…… 元大魔王って、今はなにをしてるの?」
ゼストに問う。ゼストは首を傾げている。
「勇者じゃないのに俺の圧で倒れねぇってのはよくわからんが。……今はただの隠居だ。この城に封印されてるからな。人間が滅んだら、また現役に戻るんだけどよ」
どうやらこの城は封印装置?のようなものだったらしい。迂闊になにか壊したりしなくてよかった。多分。
「ところでタキナ……城の連中はどうした?」
ゼストは不思議そうにしている。
まあ確かに、私がここまで来てるわけだ。
誰かがいたら止められるか、共に来るはずだろう。
誰かがいれば。
「誰も居なかったわよ?地下は知らないけど……」
ゼストが、驚いた顔をして……俯いた。
「そうか…………そうか。……俺の討伐に来たんじゃないなら早めに帰ってくれ。俺はしばらく一人で居たい。ああ、地下には多分、俺が趣味で捕まえた魔物が繋がれているから、近寄らないほうがいいぞ。そっちは多分生きてるし、普通の人間なら瘴気で死ぬ。……いや、タキナなら大丈夫だろうが、まあ近寄らんほうが無難だ。じゃあな」
俯いたままのゼストが、扉を閉めた。
……やはり、人が居たはずなのだろう、本来は。
なにかしらの理由で、居なくなった。
少し、心が痛くなった。
それはそれとして地下へ向かう。
強そうな魔物ならテイムして持って帰っちゃおうと思う。人の物なのにって?それはそれ。色々失った人からまた奪うのかって?いや相手は腐っても魔王だぞ。戦力を削ぐに越したことはないだろうよ。
地下は確かに、なにかまとわりつくような気持ちの悪い空気で満たされていた。
今の私にはちょっと嫌だなくらいだが、普通なら死ぬのだろうな。
「お、いたいた。……結構いるね?どの子にしよう」
いろいろいる。みんな元気に吠えている。柵越しだとあんまり怖くない気がするなあ。感覚がバグってる。
「今日はこの子にしようかな!はいテイム。……柵の鍵は入口にあったし、他の子も迎えにまた来よう。レオ君、今日からよろしくね!」
レッドオーガ。
オーガ種の上位種。
オーガとほぼ同じ身長、およそ2.5mで、オーガより細い体躯をしている。
しかしパワーもスピードも知能もオーガの比にならないほど強く、まさに上位種。
タイマンなら、オーガを統べる王、オーガキングとも優位に戦えるほど。
肉を好む。骨まで食べる。たまーに植物性のものも食べる。
レオ君と呼ばれる事になった。不満はない。
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