15話、変化がほしい
12日目。
私は、ちょっとうんざりしていた。
「いや、贅沢言いたくないし、いま多分贅沢してるんだけど。なんか、なあ」
来る日も来る日も、肉、香草、果物。
他のものが、食べたい。
魚を焼いて食べたい。
米とは言わんからパンを食べたい。
フライドポテトを食べたい。
唐揚げを食べたい。
やっぱ米も食べたい。
ハンバーガー食べたい。
チャーハン食べたい。
頭の中で、前の世界の美食が浮かび上がりまくる。
「……はぁ。気分転換に、今日は砂漠側見に行こうかな」
穀物は、今はまだ植えてすらいない。
開墾して、土をならしている?らしい。よくわからんがドワーフに任せている。
穀物だと、そのうち、芋とモロコシが植えられるそうだ。楽しみだ。
「カイちゃん、今日もよろしくね」
朝飯を食べ終えたので、カイちゃんの背に乗り、砂漠側へ向かう。
なにか面白いものが見つかればいいのだが。
荒野まではロックドラゴンとスラちゃんもともに向かった。彼らの食事は荒野の岩石だ。こっちも食べるもの減ってきたりしないかな?大丈夫か?
「最初からお世話になってるし、名前つけてあげないとな……ロックドラゴンだから、トロちゃん!とろくないけど」
トロちゃんと呼ばれたロックドラゴンは、一声グルルルと鳴いた。喜んでくれているようだ。
荒野に到着し、少しだけ彼らの食事を観察する。
トロちゃんはバリボリと岩石を食らっている。豪快だ。
スラちゃんは地表を溶かしている。じゅわあと音が聞こえる。なかなか心地よいが、隣でバリゴリ鳴らされているのでなかなか溶ける音だけには集中できない。
……スラちゃんが溶かした跡地に、何かを発見した。アレだけ溶けていない。
なんだろう。近づいてみる。
「……扉?」
どうやら、スラちゃんでも溶かせない特殊な扉のようだ。
近づいてみる。外観はなんというか、ありがちなシックな雰囲気だ。変なところはない。ぽつんとそれだけあるのは変だが。
「あけるか……?大丈夫かな」
よし、と気合いをいれて開ける。
大丈夫、なにかが飛び出してきても死にはしない。多分。
ギィ、と音を立て、扉が開く。
懐かしい匂いがする。最後に嗅いだのは、何年前だろうか。
「海、だなぁ」
扉の先は、砂浜だった。
白い砂浜、広がる海。……砂浜じゃないかもしれない?ずっと遠くまで砂だから、砂漠なのかも。
となると、ここはあの砂漠の向こう側なのかな?
だとしたらこれは転移扉か。海まではやく行く為の。……なんのためにここに?
「ま、便利だからいいか。海かぁ。魚とかとれるかな?とれるよね?どうやってとろう」
釣りか、潜りか、泳げる魔物をテイムするのがいいか。
スラちゃんは魚取ってきたりできるのかな?ていうか扉くぐれないか、コアがデカすぎる。
他の子も泳げそうにないし。となると、やはり海の魔物をゲットするのがいいが……
「さすがにそう都合よくいたりしないよね居たわ!?」
目の前の海面がザバァと押し上げられ、巨大な魔物が姿を現す。
クラーケン、だろうか。こちらを絡めとろうと長い足を伸ばしてきた!
「テイムテイムテイム!ほら!待て!」
すんでのところでテイムが発動し、絡めとられる事も殴り飛ばされることもなかった。少し海水はかかったが。臭い。
「いやでも都合よすぎ……ってわけでもないか。私じゃなかったら死んでる訳だし。魔の森も砂漠も危険ならその先の海も危険なんだよな、私以外には……」
確定テイムとステータス付与が強すぎるからこんな事になっているが、私じゃなかったら即死がそこらへんに散りばめられているようなものだ。そりゃ誰も近づかない。
さて、魔物情報を見てみよう。
エルダークラーケン。
クラーケンの中でも、特に危険な海域で長く生きた個体。
天敵はもはやおらず、海域のヌシとして君臨している。
サイズ自体は普通のクラーケンより一回り大きい程度だが、触腕から繰り出すパンチの威力、泳ぎの速度、獲物を追い込む知能は普通のクラーケンの比にならない。めちゃくちゃ強い。
主食は大型の魚だが、たまに砂浜にあがって小さな動物や木なんかも食べる。
「てことでよろしくね、イカちゃん!」
イカちゃん。多分エルダークラーケンにふさわしい威厳ある名付けではないんだろうなと感じつつも、名付けをされた喜びのほうが勝ったのでちょっと嬉しそうにする。
高い音でキーっと鳴くようだ。
イカちゃんは扉を潜れるわけもないので、この扉を目印に海側で暮らし続けて貰うことにした。毎日朝イチにドワーフを寄越して、イカちゃんがとってきてくれる事になった魚を回収してもらおうか。
そうなると、森側の拠点から荒野の扉までをちゃんと道にしたいな。でこぼこな岩石はスラちゃんに溶かしてもらって、それからなんか固められそうな性質の体液をちょっと染み込ませてもらってからトロちゃんに歩いて固めてもらう、というのはどうだろうか。戻ったらやってもらおう。
帰り際、さっそくイカちゃんが大ぶりの魚をお土産に持たせてくれた。
イカちゃんと比べたら一口サイズのお手ごろ感があるが、私が持つとちょっと歩くのがつらいくらい大きい。
帰宅し、扉のことを伝えながらドワーフに魚を見せびらかし、切り分けて焼いたり茹でたりしてみんなで食べる。
ドワーフたちは毎日交代で海側に向かってくれるそうだ。助かる。
道作りの件は、ちょっと微妙というか中途半端というか、スラちゃんが溶かして固める所までは出来るのだが、トロちゃんが踏みつけるとさすがに重すぎてなのか足跡の形に歪んでしまう。明日また踏んでもらうが、どうだろうか。今日は柔らかいからダメだった可能性もあるし。
明日はそうだな、今日結局行かなかった砂漠に改めて行こうかな。
思わぬ発見で少し食が豊かになったので、心の余裕も生まれた気がした。
明日も楽しみだ。
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