14話、食料調達の危機なのだ



11日目。

付近の動物が減っているらしい。

蜘蛛ちゃん曰く、このあたりの生態系が結構変わっているそうだ。

元々そういう性質のある森だそうで、蜘蛛ちゃんが野生の時は変化にあわせて引っ越していたので問題はなかったそうだが、拠点が固定されている今、少し難儀なことになっている。


「大所帯だからなあ。買ってくるにも限界があるよねえ……」


そのうち畜産なんかもしたいが、そんなものの成果物が得られるのは今始めても何年も先だ。

食料、特に肉をすぐに得られる手段を確立しないといけない。

そんな都合のいい手段なんてあるのかとも思うが、とにかくいろいろ考えることにした。

ひとまず皆には食料調達優先の指示をして、カイちゃんも森で狩りをしてもらうことにした。

スラちゃんとロックドラゴンは荒野でなんか探してきてもらおう。適当に。

そういえば、スラちゃんはロックドラゴンと仲が良さそうだ。というかロックドラゴンが皆と仲がいい。コミュ力が高いのだろう。いい事だ。





私はリッチとオークを連れて迷宮に来ていた。

一層を軽く探索しなおしたが、なにも出てこなかった。

どうやら一層は非リポップ型らしい。非リポップ型だと、倒した魔物は再出現しないが、内部の魔物は勝手に強くなっていくらしい。リポップ型だと日を跨ぐと魔物が再出現するのだが。

つまり一層に居たのはリッチが二体だけ。他はどうしたのかとリッチに聞くと、みんな強さを求めて下層におりていったそうだ。そんな事もできるのか。下層でまってるリッチのお友達たち、恐ろしいね。


というわけで二層に降りた。

リッチ・クリエイターがいた場所のすぐ先を曲がったところに下層への階段があった。


二層に降りるとすぐに、なにやら祭壇のようなものと装置のようなものがあった。

リッチに聞くところによると、これは転移ゲートらしい。祭壇のほうに魔力を登録しておくと、次からは入口をくぐる時に行きたい階層を思い浮かべる事でその階層に転移させられるそうだ。便利すぎ。

帰りもここから外に出られるようだ。至れり尽くせりだなほんと。

しかし、転移ゲートがあると言うことは迷宮がものすごく深い上に難易度がとてつもなく高いということらしい。恐ろしいね。


さて、二層だが。

……本当に私は運がいいというか。引き寄せる力があるというか。都合が良すぎるというか。

この迷宮の入口なら、蜘蛛ちゃん、オーク、サソリ君、がんばればサイクロプス、カイちゃんもギリいけるか?そしてリッチ二人も入れるだろう。

食料調達問題、多分解決だ。


二層目は、見渡す限り緑豊かな、なだらかな草原だった。

木一本ない、長くても腰までくらいの植物が見渡す限りに生えている。

そしてそれを食べる魔物たちも、目視で確認できる。

……アレは蜘蛛ちゃんがとってきてくれたイノシシだろう。アレも、アレも、見たことあるぞ。

二層目は食料階だった。いや、違うのか?動物型魔物階かな。

見たことあるモノが居ると言ったが、明らかに地上の魔物よりデカい。

我々としては都合がいいが、普通に考えてでかい動物とか単純に強い。やはり難易度は高いのだろう、この迷宮。


そして厄介な事に、数匹の群れで襲ってきた。


「わ、イノシシはやっ!こわいって!ねえオーク助けて!リッチも!ねー!痛い!汚れたじゃん!」


イノシシたちに跳ね飛ばされ踏みつけられ、草の上をゴロゴロ転がされる。

オークが向かってきた一匹の突進を受け止め、素早く首元に剣を差し込む。

リッチが私を踏み続けているイノシシに氷の弾丸を飛ばし、頭を貫いた。私にも当たったが私は無傷だ。問題ない。

同じように処理し、ひとまず四体を始末した。

……ダメージはない。外傷は。メンタルはちょっとまだ強くないようだ。こわいよデカいのは。


「はあ……もう帰りたい。来たばっかりなのに帰りたい。……はやくいいやつテイムして帰ろう」





見回してみるといくらか魔物が見受けられるが、それぞれ結構距離が離れていて、普通の野生動物と違ってすぐに逃げたり向かってきたりはしない。

ある程度近くによると急に敵対するので、そういうエリアみたいな物が決まっているのだろう。小さめの群れで試してみた。こいつは地上のサルみたいなものか?地上のよりは大きいが、弱い。オーク一人で無双だった。……あと多分食べれるものではないだろう。捨ておこう。

見える限りの全てが襲ってくると、私はともかくオークとリッチが危ないので、その点は助かった。迷宮の救済仕様なのだろうな。


さてではどの群れに近づくか。

食料調達の目処はたったとはいえ、無駄飯食らいは増やしたくない。働かないのは私だけでじゅうぶんだ。

となると、二足歩行で物を運べるような魔物か、重量を持てて荷物持ちとして活躍できそうな力持ちか、かな。


「アレでいいか。うん、アレ最高かも。オーク、リッチ、あの群れでいちばん大きいのだけ残してくれる?」


決めたので群れに近づいていく。

三体の群れだった。少ないと楽でいいな。

私が二体のヘイトを稼いでいる間に、リッチが氷の弾丸で一体を仕留める。

もう一体をオークが切りつけ、気を引いたところにまたリッチの氷の弾丸が飛んできて始末。

そして残りの一体を。


「はいテイム!ふたりともご苦労さま。さてさて、この子はなんて名前かな?まあ見た目でわかるけどさ」


蹴鞠のように吹っ飛ばされて汚れた服を払いながら、情報確認。



アビサルケンタウロス。

魔の森にある迷宮『アビス』に生息するケンタウロス種。

馬の体の、頭部に人型の体が生えている。

地上には存在しない。

体高が2mから2.5m、体長も同じくらい。

真っ黒な毛並み、ガチガチに鍛え上げられた全身の筋肉、可動域が広くて器用な人間の腕をもっているため、タイマンではオークはおろかオーガ種すら仕留めるほど。

だが魔法や斬撃には弱い。鎧を着ているわけではないので。

荷物持ちとして、結構優秀だろう。

ドーグに言ってこの子用の鎧もつくって貰いたいな。オークの分の脛当て以外もほしいし、鉄いっぱいほしいな……



「大きいし綺麗な毛並みだねぇ。かわいいねぇ!」


一通り撫で回してから、帰宅の準備をする。

ていうかこの迷宮、アビスっていう名前だったんだ……


オークにお願いして、倒したケンタウロス二体から売れそうな素材を剥ぎ取ったら、最初に倒したイノシシのうち二体分を手分けしてなんとか持って、ゲートへ向かう。

私は倒したケンタウロスの蹄と尻尾と心臓を持たされている。重いけど、他の子の分は私の100倍は重いんだろうな。





帰宅。

晩御飯はいつもより豪勢に肉を振舞った。

なんせ食料調達問題に解決の目処がたったからね。明日からはうちの食料調達班からパーティ組んで二層に潜って貰おう。魔物だけで迷宮に潜れるのは確認済なので問題無い。


そうだな、オークとリッチ・マジシャンと蜘蛛ちゃんで一班、サソリ君とカイちゃんで二班、でいいかな。サイクロプスは明日からまたドワーフの仕事手伝ってくれたらいいし、マジックトレントはじっと美味しい実を実らせるのが仕事だ。

ロックドラゴンとスラちゃんはちょっとまだ使い道がないので、ふたりで仲良く荒野を食べていてほしい。荒野側、とくに砂漠もまたもう少し深く探索したいけど、飛んでくる砂が嫌なんだよね。いまなら水浴びできるからまだいいか……

リッチ・クリエイターもスケルトンを生み出したあとは、ドワーフの所で細かい作業をする仕事をしている。どうやらリッチ・クリエイターは物作りが好きらしい。クリエイターだからか。


「よし、決めた。リッチ・マジシャンはマリ、リッチ・クリエイターはリクって呼ぼう。いいね?」


長いし似てて呼びづらかったのだが、いい名前が思いつかなかったのだ。まあ、悪い名前ではないだろう。他の皆にも、そのうち名前をつけてあげよう。


名付けっていうのが特別な意味を持つというのは、この時はまだ知らなかった。

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