閑話1、勇者イサムの冒険



亜国瀧奈とともに召喚された学生四人がいただろう。

彼らは勇者パーティとして、この世界を脅かしていると言われる魔王を討伐するという使命を受けた。

十日目も無事に生きられた瀧奈はひとまず置いておいて、勇者サイドの活躍を見てみよう。


「俺たち四人、この十日間で結構強くなれたんじゃないかな」


「ま、聖女たる私がいるから当然よね」


「四人での成果よ、アヤ」


「イサムも、アヤも、マナも、いっぱい頑張ったもんね……」


「リンも、な? みんなで強くなったんだ。いまならオークにだって負けやしないさ」


勇者イサム、聖女アヤ、大魔道士マナ、聖戦士リン。この四人こそ、世界を脅かす魔王を討伐せんとする、今代の勇者パーティだ。


彼らはこの十日で、とても成長した。

ジョブレベルも上がり、今では七級冒険者と同等の戦力になっている。

七級冒険者といえば、パーティでメンバーの損失なくオークを討伐できるほどと言えば強さがわかるだろう。

耐久と攻撃力に優れたオークを討伐できるとなれば、それはもう一般人の手の届かない強者だ。

彼らは十日で、普通の才能ある人間だと一年ほどかかるところにいる。

さすが勇者たち、と言えるだろう。


「さて、俺たちは強くなった。とはいえ、魔王軍の討伐に向かうにはまだまだ道のりは長いだろう。師匠が言うには、北の方にある公爵領には、ほどよい難易度の迷宮がいくつかあるらしい。そこに行って、修行を積むといいと言われた。……魔王軍に怯える人々がいる中でのんびりしたくはないが、みんなの為にも、効率よくはやく強くなろう。みんな、ついてきてくれるよな?」


「もちろんよ!」


「ええ、どこでも着いていくわ」


「できればお風呂があるところがいいな……」


彼らは王都を出て、北の公爵領へ向かう。

瀧奈が居るのは南の端なので、幸か不幸か距離が開く形になる。互いに知る由もないが。


「そういえば、俺たちと一緒に召喚された女の人は……どうなったんだろうか」


「どうでもいいでしょ、私たちがいるんだから」


「アヤ、言い方。……でも、見てないって事は、どうにかされたんでしょうね、多分」


「殺されたか……追放……?」


「……できれば近いうちに調べておきたいな」


女三人の言葉と気持ちはひとまず無視して、勇者イサムは考えを巡らせる。

我々四人はとてつもなく強い力を授かった。

そしてもう一人いたはずの年の離れた女の人は見当たらない。想像だが、ジョブが弱い事がバレたりして殺されたか追放されたんだろう。

まあ多分追放だろうなとは思う。あの矮小な王様に、処刑の決定なんてできるわけが無い。


そして、生きているならいずれ会う事になるだろうな、とも考えていた。

我々のような学生では無い成人女性の、いわゆる召喚巻き込まれ系。そしてジョブが弱いと思われての追放。これは、テンプレ、というやつだ。

テンプレ的に考えれば、最強職である我々と同じように召喚された人間なのだから、たとえ最弱ジョブをもっていても、本当に最弱であるわけがない。確実になにか隠された能力があるに決まっている。

そしてテンプレで考えれば、勇者側と必ず接触するタイミングが生まれるものなのだ。そういうのもテンプレなので。


会うのならば、できれば友好的な関係でありたいな、と思うイサムだった。

敵対した時に勇者側が無惨に負けるのも、テンプレにありがちなので。


勇者イサム。彼は『最高の仲間たちと共に前しか見ていなさそうな陽キャ勇者顔』のわりに、結構なラノベオタクなのだった。

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