13話、イカれた種族を紹介するぜ
十日目、早朝。ドーグがきた。
早朝に着くということは昨日の夜に出発したという事では? ドーグの村までの距離は知らないが。
ひとまず、サソリ君とサイクロプスの背嚢と、香辛料を何種類か、そして畑セットとして、農具各種、野菜の種各種、農業指南書をもらった。これでひとまず、文化的な産業ができそうだ。
そして、今回もまた、ドワーフが着いてきている。二十人ほど。
「ということでな、ワシらの村はこっちに移そうと思うのじゃ」
「ということってどういうことですか?」
どうやら、ドーグの村で私たちの事を話したら、全員が全員興味を示したらしい。
だからといって村ごと引っ越すってのはちょっとよくわからないが。
今までの村としての取引とかはどうするのかと問うと、そもそも唯一の取引先もイカれた商人らしいのでソイツもこっちの陣営に引き込む、らしい。
元の場所は廃村として、人間の集落側からこの拠点へ向かう途中の休憩地点としてちょっとだけ保全する事になるそうだ。そんななんか大雑把でもいいのかなとは思うが、こいつらはイカれたドワーフ。常識では測れない。私も常識なんかないが。
ということで、置いてきた村人を含めると、合計で六十人のドワーフが、私の拠点に住む事になった。
さっそく大量に運び込まれた資材で簡易的な家を建てている。さすがドワーフだ。
簡単なプレハブみたいなのなら明日には完成するらしい。私の家は結構ちゃんとつくるからそこそこかかるそうだ。楽しみ。あと十日くらいか?
ひとまずその他ドワーフは置いておいて、ドーグに次に欲しいものを相談する。
リッチ・クリエイターを紹介すると、他のドワーフと同じようにものすごく興奮していた。ドワーフってこんなんばっかりなのか。
召喚スケルトン用に農具やら武器やらが大量に欲しいと伝えると、それなら鉱石さえあればワシらがつくるが、とのことだった。
荒野側にそういうのあったりしないかな、と思うが、危険は危険だろうしドワーフを向かわせるわけにもいかないし、そもそも採掘の人手もなかった。
ひとまずドーグは元村に戻り、唯一の取引先の商人にこっちの拠点の事を教えてから、残らせた村人とともに持てるもの全部もって帰ってくるそうだ。もうここが帰ってくる場所判定になっている。
さて、朝はやくからドーグと取引をし、朝昼兼用で食事を振舞った後。
私はカイちゃんの背に乗って、森の上空を飛んでいる。
「ずーーっと森じゃん。向こうの山まで行きたいけど、思ったより遠いなあ」
魔の森の奥の方には、聳える山脈がある。
標高が高いため、すこし近くにあるように見えるが、実際はめちゃくちゃ遠いのだろう。全然近づけてる気がしない。
二時間ほど飛んでもらって、そろそろ私の体が限界を迎えそうだったので一旦降りてもらう。
すこし拓けていそうなところを探す。
「お、あそこなんか拓けてない?あそこで下ろしてくれる?」
「キュオァ」
「ありがとね」
木々が少ないところに着地。
よく見ると、ほぼ円状に整地されている。なにかの意図を感じる。
座って休憩しながら、まわりを観察する。
魔物は居ない。チラッと見えたサルのような魔物はスグに逃げていった。
休憩もそこそこに、もう少し進もうかとカイちゃんに跨る。飛んでる分には振動とかないから良いのだが、しがみついているのが大変なのだ。落ちても死にはしないだろうが、それはそれ。
また暫く飛ぶと、いくつか同じように拓けている場所を見かけた。
一応全部降りてみたが、やはりなにもない。
「うーん、なんなんだろね。気になるな……」
もう少ししたらひとまず帰ろう。そう思ってまた飛んでいると、ソレを見つけた。
大きな湖……のようなものが、水滴のような形で、森を進んでいる。
そしてしばらく進んだところで、動きをとめた。
すぐに、そのおおきな水滴から、蒸気か煙のようなものが立ち上がる。
どうやら、触れているものを全て溶かしているようだ。
そしてまた動き出す。
溶かした跡地は、先程から私たちが降りていた円形の広場と全く同じ形だった。
「あれ、スライムが食べたあとだったのか……いや、スライムなのかな? デカ過ぎない?」
私の知ってるスライムはあんなに大きくはない。ロックドラゴンくらい大きいが。災害か?
さて、当然強いとは思うが、使い道がまったく思いつかない。
体液は強い溶解性だろう。いろいろ溶かしてくれそうだ。
だが生ゴミの処理にはデカすぎる。
森の木々を溶かして道をつくる、ということがあったとしても、それはロックドラゴンでもいい。あの子も歩くだけで森が拓ける。
テイムする理由が今のところはない。
だが、放置する理由もあまりない。今日はもう疲れたから帰りたいし、アレが拠点側に来たら多分めちゃくちゃ困る。……ひとまずテイムして、当分はこの辺から山側で食事をしていてもらうか。
「はいじゃあ、とりあえずテイム! よろしくね……えっと、名前は……長いな?」
フラグメントオブウボサスラ。
とあるヤバい生物のなにかの欠片、らしい。
全てのスライム種の始祖とも言われる。スライムは自然発生するので、実際そうなのかはわからないが。
体液はいろいろな性質に変化させられる。
食事の時は強酸性にして一気に溶かして消化するが、普段は普通の水のような体液にしているらしい。動きやすいからだそうだ。
他にもいろいろな性質、例えば植物にとって都合のいい栄養剤だとか、動物や虫が好む甘い液体だとか、土地を殺すほどの猛毒だとかに変質できる。恐ろしく汎用性が高いのではないか?
ただ、デカい。ロックドラゴンくらいデカい。スライムの弱点として知られる体内のコアですら人間よりデカい。勝てる気がしない。
食事量は思ったほどではなく、先程から見てきた円形の広場ひとつで一日分だそうだ。十個くらいあったから十日分辿ってきたのか私たちは。言われてみれば一個目と十個目では全然違ったなぁ。そして食べる内容も特になんでもいいらしい。生き物でも植物でもいいし、土や水でもいいし、砂や岩でもいいらしい。とにかく容量があればいいというのだからよくわからない。栄養とかいう概念がないのだろうか。
それならロックドラゴンと合わせて荒野側に食事に行ってもらうか。連れて帰って相談しよう。
フラグメントオブウボサスラ……長いからスラちゃんでいいや。スラちゃんは私の誘導にちゃんと従って着いてきてくれた。
カイちゃんの飛ぶ速度にもついてこれた。でかいのに速すぎ。恐ろしすぎるだろう。
スラちゃんをみたドワーフのみんなは、さすがに腰を抜かしていた。さすがに、な。
しかしすぐに群がってきて、説明するまえに触り始めるバカもいた。腕無くなるとか思わんのだろうか。今は安全な性質になってもらってるけどさ?
案の定、性質を変えられるのを知ったドワーフどもが狂喜乱舞。少しづつ体液をくれを言ってきた。
スラちゃん的には特に問題ないそうなので、ひとりバケツ一杯分ずつを許可した。ひとまず性質は水のままで。
ドワーフどもはバケツを大事そうにかかえて、スラちゃんと私に礼を言って帰っていった。イカれてはいても礼儀はあるらしい。
「さ、ロックドラゴンに明日からよろしく言ったら寝ようかな。まだ帰ってきてないけど……先にご飯食べるか」
ひとまず晩御飯を食べてしまおうと思う。
やはり、サイクロプスがドワーフを手伝っている影響で、肉の量が心もとない。
さすがにちゃんと肉集め要員を探すか、と思った。
とってきてくれた鹿のようなものは、鍋風にして食べた。めちゃくちゃおいしかった。やっぱり塩を気兼ねなく使えるのは幸せだよ、本当に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます