10話、灯台もと暗しすぎる
八日目の朝、ドワーフ達に一通りの指示を終えたドーグが帰る直前、こんな事を言った。
「いやしかし、この辺りは物凄く楽しい土地じゃのう。森も荒野も危険しかない。危険な分得られるものが大きい。いいのう、心が踊るわい。それに、あんな近くにダンジョンもあるんじゃから、探索する力があればもっと楽しいじゃろうな!」
え、ダンジョンなんて知らないが??
帰る前に案内させた。森の浅い所、拠点からめちゃくちゃ近くに、見るからに怪しい、真っ黒な膜があった。いや、いままでよく見つけられなかったな、というくらい目立っているが。
膜は円形で、高さが3mくらいある。サイクロプスは入れないか? 屈めばはいれるか。蜘蛛ちゃんサソリ君とオークは余裕をもって入れるだろう。
……ほんとになんでこんな近くにあるのを見逃していたんだ?
というわけで、今日はダンジョンに潜ろう。
魔の森にあるダンジョンだからどうせ難易度が高いだろうということで、武器を持たせたオークをお供にする。この子はとても器用で、ドワーフたちが少しだけ剣術を教えていた。
あわよくば、QOLを上げられるような魔物が出てくれると良いなぁと思う。
ダンジョン産の魔物なら、たとえば群れが報復に来たりとかは無いだろう。多分。好き放題できて素晴らしい。
さっそく、膜……ゲートって呼ぶか、膜ってなんか嫌だ。ゲートを潜り、ダンジョンに侵入する。
「おお、ダンジョンぽい……」
目の前に広がるのは、遺跡のような通路。通路幅は広く、壁は煉瓦のようなものでつくられており、うっすらひかっている。
ダンジョンというのは、階層がいくつかあり、様々な特徴があるらしい。
たとえば固定型と呼ばれる遺跡型、自然型、というものだったら、全階層通して遺跡風だったり、全階層が森だったり。
ランダム型という、いろいろとごっちゃになったダンジョンもあるそうだ。
固定型とちがい、ランダム型は一層目から難易度が高いらしい。
固定型一層目は、ゴブリンやスケルトンなどの比較的ありふれた弱い魔物が出現し、深く潜る事に強いものが出てくるレベルアップ式なのだが、ランダム型は最初から強いものが出てくる。どっちの型も深く潜るとさらに強いのが出てくるが、それはそれとしてランダム型は一層目からめちゃくちゃ難易度が高い事が多いらしい。
このダンジョンは、ランダム型なのだろう。
なぜなら。
「……あれめちゃくちゃ強そうじゃない? めちゃくちゃ魔力っぽいの迸ってるし。ただのスケルトンじゃないでしょ? かっこいいローブ着てるし。……こっち見た! テイムー!!」
なんかやばそうな骨がいた。こんなん絶対弱い魔物じゃないでしょ。明らかに雰囲気がおかしいもん。
……こんなのばっかりでるなら、深く潜るのもこわいなぁ、と思った。が、出てくる魔物をテイムし続けていけば、いずれはパーティとして運用できるだろう。今テイムしたやつは魔法使えそうだったし、オーク用に鎧や盾なんかつくってもらえば前衛タンクと後衛魔法火力になるだろう。……あれ、もしかしてタンクは私がやったほうがいい?防御も体力も、一応ロックドラゴンより高いわけだし?……やだな怖い。
……捕まえた骨の情報を見てみよう。
リッチ・マジシャン。
名前の通り、魔法を使えるリッチ。ほかの種類のリッチも居るのかな?
どうやら個体によって使える魔法の属性が違うらしい。この子は氷属性。おお、物を冷やすのに便利! やったね!
知能が高い上に手先も器用なため、細かい作業にも向いているだろう。指も細いし。
ローブは体の一部らしく、脱がせたりはできない。まあそれはいいや。着たいわけじゃないし。
地上では、放棄された墓場や戦場跡に稀に現れる。なかなか強いらしい。
結局初手でテイムを使ってしまったため、今日の探索は終わり。
まあ、近接攻撃しか手段のないオークと、頑丈なだけの私とだけならちょっと厳しいが、次からは遠距離魔法を使えるリッチも探索に連れていけば捗るだろう。今日はもう戦う理由もないし、いい。帰って昼飯食って散歩して寝る。
ダンジョンから帰り、昼飯。
適当に果物を齧りつつ、オークが貯め込んでおいてくれた野草と肉で香草焼きをつくって食べる。美味い。
リッチに大量に氷を出しておいてもらって、かち割って容器にいれておく。これで溶ければ普通の水も確保だ。正直、いくら水分量が多いからといっても果物だけの水分じゃ不安だった。糖尿病とか。
そしてなにより、ようやく水浴びができる……!
苦節八日、いままで朝霜を集めた貴重な水しか使えなかった。さすがに乙女として尊厳がやばい。これだけでイージーモードとか言えなくなる。いままで大変だった。全身痒いし……
明日もダンジョンに潜ろうと思う。そして私はタンクをやろう。そういえば蜘蛛ちゃんの全力攻撃でも痛くなかったんだったと思い出した。
ドワーフのドーグが運んできていた武器類の中から、大きめの盾を発掘。重いが、まあ大丈夫だろう。最悪の場合は無くてもいいのだが。
鎧系は……いいや、いらない。重すぎるし。盾だけでじゅうぶん。
私の分はこれでいい。
オークは今はメイスとショートソードを持っているので、それはそのまま、付けられそうな防具も付けてもらう。……ドワーフの協力を得て、すね当ては付けることができた。明日から、すねだけは守られるぞ。
リッチ・マジシャンの分はとくになにも追加しない。杖なんか使うのかともおもったが、全身が魔法の触媒みたいなものらしく、なにも必要ないそうだ。
ああ、あとそういえば、食事は魔力らしい。どうやってあげればいいのかわからなかったが、ロックドラゴンから吸収することになったみたいだ。ロックドラゴン、魔法は使えないが魔力は膨大らしく。それもリッチが食べる程度の量だとなにもしなくても回復するらしい。改めて、ドラゴンってのはインチキくさいよな、と思った。
とにかく、明日の準備もした。
明日もリッチ系をテイムできたらいいなと思う。
そうだな、他の属性……炎もまあ、居た方が嬉しいし。水もね、氷と被るけどほしい。風とか地属性とかはどうなんだろう。地はまちづくりに役に立ちそうな気はするけど。
バフ系とかもいれば楽しいかもな。回復系は……悪霊でヒーラーは無いか。
あとは……わからない、なにがあるんだろう。
明日は相手の攻撃を見てからテイムしよう。そうしよう。
……ちなみに、リッチ・マジシャンをみたドワーフ達は、ものすごく興奮していた。生態がイマイチわかっていないらしい。支障のない範囲での観察は許可してあげた。
ドワーフたち、恐怖とか感じないのかな。……ロックドラゴンが居るし今更か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます