8話、実のある話
六日目、朝。
今日も各自、することをしてもらう。
サイクロプスには、ひとまず自分の分の食料調達と、あとはできればこのあたりの木を何本か倒して丸太にしておいてもらおう。
そのうちなにかにつかうだろう、きっと。
私は、サソリ君に乗って昨日と同じように森の奥を目指す。
昨日の視線の正体を探りたいなあ。
森の奥、多分この辺が視線を感じたはずの場所だ。
改めて見回すが、なにもいない。昨日はもう少し進んでサイクロプスに出会ったのだが、今日の目的は視線の主を見つけることだ。
……まったくわからない。見回しても、木しかない。木と、草と、あとは飛び回る虫くらいだ。
「……あれ? あの木」
ふと一本の木が気になる。
ほかの木に比べて枝が低くて太い気がする。
ほかの果物のなる木に比べて実の数が多い気がする。
ほかの木にくらべて苔や草があまり生えていない気がする。
……視線もその木の方向から来ている気がするなぁ。
確証はないが、今日の分使ってしまうか?
仮にそれが、トレントのようなものだったら、何に使える?
実をつけているから、果物がとれるのかな。飾りじゃないよね。
あとは? そのうち、畑とかつくるとして、それのお手伝いとかできるかな?よし、テイムしておこう。
「テイム! ……お、正解だ」
どうやらやはり、ソレはトレントだったようだ。
こっちを見てたのは、警戒心からだったようだ。臆病な性格なのかな。
マジックトレント。
魔の森の固有種。地属性のうち、植物系の魔法がつかえる。
普通のトレントは、頭に生っている実で生き物をおびき寄せ、鋭い手の枝で貫き、養分にする。
マジックトレントはその方法も使えるが、魔の森は魔力がとても濃いので、普通の植物と同じように根からの吸収で栄養を賄える。大変コスパがいい。
今のところは、サイクロプスと同じくほとんど使い道はないが、たまに実を貰ったりお肉をあげたりしておこう。そのうち畑とか作った時に、多分手伝ってもらえるだろう。
今日の分も使い切ったので、素材集めもそこそこに、ひとまず拠点に帰ることにした。
「えっと、お久しぶりです、ドーグさん」
「おう、来たぞ」
「……これは?」
昼頃に拠点に帰ると、そこにはドワーフのドーグがいた。
後ろには、でっかい荷物と、十人くらいのドワーフもいた。
「おう、全部タキナのための荷物じゃ! 後ろの馬鹿どもは見学に来たいと言ったやつを集めて家づくりをさせようと思ったんじゃ。家、要るじゃろ?」
「え、家ほしいです」
「というわけで、ここから半月くらいかの? ひとまず人間が住めるような家を木造でつくらせてもらうぞ。出来上がるまでの馬鹿どもの飯は気にせんでいいから安心せい。で、こっちの荷物が今回分の対価じゃな」
でっかい袋の中から、いろいろな道具やらが出てくる。
調理器具、食器、衣服、そこそこ使えそうな武器や、人間用だが背嚢もあった。
そして。
「……コンロ?」
「ああ、魔道具のコンロじゃ。魔石をセットすれば火を起こせる。使い方はわかるかのう? つまみを押して回すだけじゃ」
「わかります!ああ、火だ……ようやく生肉から卒業……!」
ようやく、火を手に入れた。
これでようやく、人らしい食事がとれるだろう。
保管に使えそうな箱も貰ったので、雨などで濡れては困るものはひとまずそこに入れ込んでおいた。家ができたらそちらに移そう。
武器は何種類か貰ったが、私が使えそうなのはナイフと鉄の棒くらいだったので、何故かある大きなハルバードをサイクロプスに、メイスとショートソードをオークに渡しておいた。
他にもいろいろ種類はあるが、そのうちなにかの役に立つだろう。
対価として、とりあえずはロックドラゴンの抜け落ちた鱗のなかで一番大きいものと、その他欠片を持てるだけ持ってもらった。
次回の注文として、サソリ君とサイクロプス用の背嚢と、簡単な畑セットと、あれば香辛料をお願いした。香辛料、あるなら肉が捗るぞ……
その日は、ドワーフ全員をロックドラゴンの背に乗せて散歩させたり、家の場所と大まかな大きさを相談したり、マジックトレントの落枝も集めておいてとお願いされたり、久しぶりに焼いた肉を食べて感動して皆にも振舞ったり、そんなこんなで久しぶりに人と楽しく夜を過ごした。
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