5話、よく見たら可愛いかもしれない
ふごふごと、鼻を鳴らしている。
オーク。
豚の顔をもつ二足歩行の魔物。
汚くて臭いイメージがあるが、実際近づいてみるとそんなことはなかった。
まず、顔周りはめちゃくちゃ綺麗にしている。そもそも豚は綺麗好きなんだよな。
体は泥まみれだが、多分これはわざとだろう。
泥をまとわせることで、乾燥を防いだり、においを抑えたりする効果があるのだ。
……息も全然臭くない。これは帰りにわかったのだが、なんだか爽やかな草を、見かける度に食べていた。ミント系なのか。鼻呼吸なのも口がくさくない理由だろう。
何が言いたいかと言うと、汚くも臭くもないし、豚みたいな顔とぷにぷにかつ力強い体つき。
かわいいのだ。キモかわいいに近い。
そして、これはQOLに関わってくる話だが、手先が器用なのだ。
果物は傷付けずに丁寧に採集するし、ミント系の草もわけてくれるし、腰蓑もつけているのだがこれも手作りらしい。
……どうやら、ある程度知能の高い魔物であれば、簡単な会話らしき意思疎通もできるっぽい。
ああそういえばロックドラゴンも、美味しかったとか言ってる気がしたな、と思った。
もしかすると料理もさせる事になるかもしれない。生活の自動化、バンザイである。
さて、今日のテイムも終わったし、あとは果物を回収して帰るだけだ。
ロックドラゴンは勝手に飯を食ってきているだろうし、蜘蛛ちゃんは私が食べた残りの肉をあげればいいだろう。オークも、両手いっぱいに果物を持ってくれている。足りはするだろう。
「かえってなにするかなー。ロックドラゴンが帰ってきたらちょっと散歩してみるか」
かえって、ロックドラゴンが戻ってきていれば、背中にのって荒野側を下見にいこうときめた。
「よかった、居るね」
集めた果物を、昨日即席でつくった集積所……木で囲っただけだがわかりやすい所に保管して、オークに留守番してもらう。
そういえばこの辺りは超危険地帯とされているらしく、人間はこない。私が来た時に案内してくれた騎士様も、死んだような顔をしてここまで連れてきてくれたっけ。生きて帰ったかな。
なのでオークに留守番させても、討伐なんかはされないはずだ。より強い魔物が来ない限りは。
軽く果物で食事をとり、ロックドラゴンの背にのる。
蜘蛛ちゃんはまだ帰ってきていない。無事なのはわかる。テイムした魔物とは心のパスが繋がってる感じで、おおよそどれくらい遠くにいるかがわかるようになっている。元気かどうかも、だいたいわかる。
さて、荒野側だ。この先は延々と荒野と砂漠が続き、その先に海があるらしい。
魔の森と同じく、国が領有していない土地だ。
ロックドラゴンの背から、眺める。目線がめちゃくちゃ高い。
……なにもない。マジでなにもない。岩しかない。ロックドラゴンにとってはとてもいい所なのは伝わってきたが。
魔物1匹いない。まあ、ロックドラゴンの食事場だからなぁと納得した。
砂漠のほうへも行きたいが、結構遠いっぽい。ロックドラゴンで二時間くらいかかるようだ。毎日往復してるのかこの子……
「砂漠は明日かなー。よし、帰ろうか。……ちょっとだけ齧っていってもいいよ?」
ロックドラゴンは喜んだように唸り、手近にあった岩石を頬張る。
ゴリゴリと音と振動がする。ロックドラゴンの背にも響いてくる。……今度からは食べる前に降ろしてもらおう、そう思った。
さて、帰宅。宅ではないが。
オークはうつらうつらとしているが、ちゃんと果物を守ってくれていたらしい。よしよし、もう寝てもいいよ。
ロックドラゴンから降りて、見渡す。まだ蜘蛛ちゃんは帰ってきていない。ちょっと遅めかなぁ。
帰るまで、のんびり待とう。
「で、これは?」
「おう、助けてくれんか?」
蜘蛛ちゃんは、今日も肉を持って帰ってきてくれた。
ただし、食べる用ではない。殺してもいない。
人間……でもないのか?どうなんだろう。
「あばれないって約束してくれたら助けます」
「おう暴れん暴れん。というか無理じゃろ、この蜘蛛にすら勝てんかったんじゃ」
というわけで、蜘蛛ちゃんにソレを離してもらう。
「えでっ! 優しく降ろさんか……いや、よい、よいわ、もう……さて、ワシは色々聞きたいし、そっちも色々聞きたいと思うが」
「そうですね? ……まずは自己紹介ですか?」
「おう。ワシはドーグ。イカれたドワーフじゃ。歳はピチピチの百五十歳。素材採集に魔の森に来たんだが、迷子になった上に空腹でフラフラになってコヤツに捕まった。普段なら勝てるが今は無理じゃ、酒も入っとらんし……ま、よろしくな」
「あ、はい。私は瀧奈。人間です。この子たちは私の配下です。蜘蛛ちゃんと、オークと、ロックドラゴン。可愛いでしょ?」
どうやら彼……? 彼は、ドワーフらしい。人間かどうか微妙なところだったが、すっきりした。
そしてやや強いのもわかった。さすがにロックドラゴンには勝てないだろうが。
そして、イカれている。自分でいうならそうなんだろう。魔の森で迷子になるんだから絶対そうなんだ。
「ロックドラゴン……ま、マジじゃ! マジでロックドラゴンじゃ! ……触っても良いか?」
「あ、ええ、……いいよね? いいって。どうぞ」
「うおおすげえ! ロックドラゴンだ! 生きてるのはじめてさわった! かってえな鱗! すげー!」
……ロボットをみた子供みたいな騒ぎ方だ。
どうやらドワーフはそういう種族らしい。いや、この人だけで決めつけは良くないな。
ロックドラゴンは満更でもなさそうな感じだ。知能も高いわけだし、この子はこの子で幼い感じがするし、チヤホヤされて嬉しいのだろう。
「うおお、すげー……お! 閃いたぞ! なあタキナよ、取引せんか!」
「あっはいなんでしょう」
「このロックドラゴンの鱗やら、魔の森の素材やらと、ワシの持てるもので、物々交換。どうじゃ!? アンタどうせ国外追放されたクチじゃろ、人間種が便利に生きるための諸々、ワシとワシの店が揃えてやろう!」
……どうやら、またまた都合よく物事が進みそうだ。
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