第3話 銀の指輪

夏期講習が終わっても茂登子は塾を続けると言ってくれた。お金の方は大丈夫なのかなと 少々心配になったが、教育関係にはそれぞれの家庭の事情に応じて 様々な支援があるらしい。どんな支援があるのか僕は全く知らなかったけれども、そういったことに茂登子の家庭は詳しくて自分たちが使える援助 探し出して申し込んだらしい。それでなんとか秋からも 学習塾の授業を受けることができるようになった。さすがに もう お弁当は 作ってきてくれなかったけれども 1時間目と2時間目の間には友達の幸恵と一緒に必ず僕の机のところに来て楽しそうにいろいろ話をしていった。僕は茂登子が可愛くて仕方がなかった。静かにしていると美しくて綺麗なのに話し出すと 本当に嬉しそうに無邪気に よく笑った。茂登子は少し 友人のゆきえと似ていた。2人とも美しく 整っているからだろうか。茂登子と 同じようにゆきえも男子の生徒にも 職員にも人気があった。塾には学生のアルバイトで塾の先生をしてくれている若い男子学生 もかなりいた。そうした 学生の先生の周りにも子供たちはいつも 群れていた。真面目に勉強の質問に来る子もいたけれども ほとんどの子は先生が好きで 先生とおしゃべりをしに来るのを楽しみにしていた。1時間目と2時間目の間の15分 のささやかな時間は子供たちとの交流の時間だった。それと同時に 先生達にとっては夕食の時間でもあった。だからその15分はとても忙しい時間だった。2時間目の準備をしながら夕食を食べ 子供たちの話の相手もしなければならない。正直言ってきちんとやるのはほとんど不可能だった。ただ慣れというのは恐ろしいもので この忙しくて不可能なことが簡単にできてしまうから 驚く。子供達と同様 僕もわずかな 15分という時間に遊びに来てくれる子供たちをどこかで心待ちにしていた。「D 組の男の子たちがしつこいのよ。」

「どうした?」

「もっちゃんと一緒に魚釣りに行こうって言ってくるのよ。」「モテるねェゆきえも茂登子も。」

「へへ。」2人は照れた。 

「まぁこんな美人が2人揃ってたら、誘われるよなそりゃ。」

「自転車で行くんだろう。近いところはいいけどあまり遠くには行かないようにね。」

「どうして?」

「品野は田舎だから、人気のない森とか工場跡がいっぱいあるからな。」

「はあい。」

「でもあの子たちと付き合ってもあんまり面白くないのよね。」

「モテモテのゆきえさんは 何が ご不満なのかな?」

「あの人たち あんまり面白くないのよ。」ねえねえ と茂登子の方を向く。茂登子も頷いていた。

「男の子たちって魚とりとか野球ばっかりしてて詰まらないのよ。他に何かないの?」

「みんなまだ中学生だからさ、子供なのよ。」君たちもねと思ったが 黙っておいた。

「高校生になったらもっといろんなことができるさ。アルバイトもできるだろうし、お金があれば、いろんなところにも遊びに行けるだろう。」

「私 早生まれだから、もうすぐ誕生日なんだ。」と、もとこが言った。

「いいな 私はもう終わっちゃった。」とゆきえ は言った。

「2人とも今いくつなんだっけ。」

「15歳 」

「14歳」

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