おにぎりとプリン

お弁当を作ってきてくれる生徒なんて 初めてだった。お弁当を作るのは普通はお母さんの仕事だった。だが茂登子にはお母さんはいない。正確にはいるけれども障害があってお弁当を作ったりすることはまずできない。そうした場合にはおそらくおばあちゃんがやってくれていたんだろう。中学生になった茂登子はもう自分の分もおばあちゃんの分も全て作れるようになっていた。そして 寂しい 塾の先生の分まで茂登子は作れるようになっていた。周りの先生は 愛妻弁当食べているのに1人だけ おにぎりを食べている僕がかわいそうに思えたのかもしれない。しかし、いくら 家庭科の授業で習ったとはいえ 中学生の女の子がお弁当とおまけにプリンまで作って、会ったばかりの塾の先生に持ってきてくれるなんて普通はありえない。

正直 おにぎりにプリンなんてちょっと合わないだろうと僕は思っていた。しかし 食べてみると 意外に これがあっていた。 おいしく食べられた。何とも不思議な組み合わせであることは確かだが食べてみると悪くなかった。おにぎりの塩味とプリンの甘みがよく合っていた。おかしな組み合わせであることは確かだ、悪くなかった。美味しかった 驚いた。

茂登子は友達のゆきえと一緒にいつも僕の テーブルに来た。

食べた どうだった

ありがとう でもお前 受験生なんだから お弁当 なんか作ってちゃダメだよ

「うれしかったくせに。」

「嬉しかった。」

「素直じゃないな」 ゆきえが言った。

「嬉しかったし美味しかったけど、もうお弁当なんか作っちゃだめだよ。受験生なんだから。」

「お金払って夏期講習に来て成績が下がったらおかしいだろ。」

「嬉しかったくせに」ゆきえ

「嬉しかったって言ってるだろう」

「お弁当本当にありがとう、プリンも美味しかったよ。でもね勉強して高校に受かるために来てるんだからそれを一番に考えなきゃ。」

ゆきえはブーブー言っていたが茂登子は素直に反省しているようだった。

「美味しかったし 本当に嬉しかった。でもね夏期講習に集中して年末には受験しなきゃいけないんだから。まあ君なら窯業の商業科はまず大丈夫だと思うけど、せっかく夏期講習のお金も払ったんだし勉強第一に考えてね。」

茂登子なら 窯業の商業科はまず合格できる それだけの内しん を持っていた。茂登子 はしっかり聞いていた。どこにも ふざけた様子はなかった。夏期講習のお金だって馬鹿にはならない。正直茂登子の家にはそんなにお金に余裕はなかった。元々 学習塾に頼らなくても勉強はできる子だったんだろうが、念のために 夏期講習を受けたんだろう。


「お弁当 嬉しかったんでしょ。」

「嬉しかったよ。」

「じゃあ何か お返ししてよ。」

「いいよ。何がいい?」

僕はすぐに思いついたのは おしゃれな街で 何か美味しいものでも ごちそうしようということだった。

本山駅に近い そのおしゃれなビルに茂登子は驚いていたみたいだった。白いレンガ作りのビルは中も外も おしゃれだった。女の子が喜びそうな洋服やアクセサリーで溢れていた。茂登子は最初 嬉しそうにはしゃいでいたが、嬉しそうな表情はすぐに消えてふさぎ込んでしまった。素子は周りの女の子たちと自分を比べ始めた。茂登子がいくら綺麗でも、着ている洋服屋やおしゃれでは都会の女の子たちにかなうわけがない。しょせん品野の奥に住んでいる田舎者だ。茂登子は初めて 劣等感に苛まれていた。

「もう帰りましょう。」

「なんで ここおしゃれでいいだろ。」

「おしゃれよ確かに…」

「でも私は品野の方の方が好き。」

茂登子は最後に髪飾りが欲しいとねだった。

「いいよ好きなのを選びなさいよ。」

茂登子はそれほど高くないものを選んだ。

来た時のワクワク感は消え失せていた。何か物足りないような後ろめたさが残った。もったいないからいいよという茂登子をなだめて花屋に立ち寄った。何本かのバラを選び ブーケに仕立ててもらった。茂登子は花を喜んだ。

茂登子の家の近くまで送って車を降りる間際に茂登子は言った。

「色々ありがとうね。でも街じゃなくてここで良かったのに。

私は品野が好きなの。」茂登子は花を楽しんだ後、枯れたのでドライバー フラワーにしたと言っていた。

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