第7話 瞳見×ユーレイ 前編

「……うわあ」

買い物帰り、比較的大きい道路で奇妙なものを見た。

一言で言うと、簡単ではある。

“ヒッチハイクしてる幽霊”

白いワンピース、長い黒髪、うっすら透けてる体と、すごく典型的な幽霊なのだが。

道路に向かってグッジョブのサインを送っている。

しかもジャンプしてめちゃくちゃアピールしてる。

…………よし、何も見てない。

見なかったことにしよう。

なんかこっち見てる気がするけど、私は何も見てない。うん。

気のせいということにしてくるりと振り返ったら、いた。

さっきの幽霊が目の前にいた。

……あれかな? 人を驚かせるのが好きな人かな?

「見えてるよね?」

彼女が口を開いた。

「……あ、えーと……。見えてないです」

「あ、なんだ見えてないのかぁ……。って嘘つけ」

ノリがよかった。

「改めて聞くけど、見えてるよね?」

「まあ、そうじゃないとは言えないというのが正しいのかもしれませんね」

「どっちよ」

「見えてなくもなくもなくもなくもなくもないね」

「なくもが奇数の時は肯定……つまり!?」

「見えてます」

彼女は、はあ、と大きくため息をついた。

「なんで初めて会った見える人がこんななのよ……。とにかく」

後ろ髪と同じくらい長い前髪を後ろに流し、彼女はしっかり目線を合わせながら言った。

「どっか行くわよ。あなたすごく注目されてるじゃない」

「私のせいじゃないよ!?」

近くの路地に入ると、さらに車が通れないくらいの丁度いい細い道があったので、そこに入る。

周囲に人がいないのを確認して、彼女は改めて私に話しかけた。

「道を教えてくれない?」

「……それだけ?」

それだけであんなにヒッチハイクしてたの?

「死んでも方向音痴は治らなかったのよ……。てへっ」

「身を挺したブラックジョーク」

確かに死んでも治らないとか言うけど。洒落にならないよ。

「ちなみに、どこに行こうとしてたの?」

「霊園」

「急に幽霊感が増した」

「墓参りだけどね」

「参られるほうでしょ明らかに」

「なによ。幽霊が墓参りしちゃいけないの?」

「いけんこたないけども」

「標準語喋って……?」

なんにせよ、霊園の場所など、調べれば済むことだ。

普段滅多に使わないマップアプリを起動させ、検索窓に「霊園」と入力。

表示された地図を覗く幽霊ちゃん(仮)。

しかし、途中で硬直する。

「ちょっといいかしら」

「うん、なに?」

「……忘れてたの」

「え?」

「……私、地図読めないのよ」

「先に言ってほしい!」

「仕方ないじゃない、方向音痴なんだから」

「方向音痴と地図弱者は関係ないよ!?」

「だって知らない地名ばっかりじゃない!」

「そんなバカな……あれ?」

「え?」

「膳所……ってどこ?」

「うん?」

「あ、ごめん、全然違うとこだった」

「人のこといえないじゃない!」

「適任者じゃなかったみたい……」

「じゃあ適任者呼びなさいよ!」

「えー……」

双未……は駄目だな。地図とか得意だけどね。全く見えないし。

満巳……も駄目だな。幽霊とか苦手だからね。地図も苦手だし。

六花ちゃん……駄目だ、大いに戦力外な気がする。

私は別に読めるんだけど、アプリの操作方法がいまいちわからない。

少々見えて地図が読めてアプリの操作がわかる人……いないわ。

「あんたにもいるでしょ、友達くらい」

「ごめん、いるにはいるんだけど、音信不通なんだよ」

幼馴染の……あれ、あいつ名前なんだっけ?

「これ気のせいかもしれないけど、その友達ちゃんと覚えてなさそうね、あなた」

「あはは、そんなバカな……あはは」

「100%笑ってごまかしてるわ」

さて、どうしたものかと頭を悩ませる私達。


後編へ続く!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三つ子たちの奇妙な生活 櫻井桜子 @AzaleaMagenta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ