過去:星屑隊のネウロン帰還前日



■title:交国首都<白元びゃくがん>にて

■from:英雄・犬塚


「皆。こんな茶番に付き合わせてしまって……すまん」


 格納庫にて。見送りのために集まった部下達に頭を下げる。


 皆、「特佐が謝ることなんて、何1つありませんよ」と言っている。


 言っているが……。


「特佐は俺達オークの救世主です」


「胸を張ってください。貴方のおかげで、オレ達は救われるんですから……!」


「だが……今回の作戦は……」


「全員、貴方に感謝しているんですよ」


「悪いのは犬塚特佐じゃありません。悪いのは、交国政府システムです」


「それより、本当に特佐1人で向かうおつもりですか?」


「ああ、とりあえずはな」


 作戦準備は既に整っている。


 それこそ、何年も前から用意されていた。


 出撃するのは俺1人だが、部下達の支援もある。……奴の書いたシナリオ通りに動くのは納得いかないが、予定通りに動けば何も問題はないだろう。


「ただ、黒水守が動く可能性がある。アイツが出てきた場合、俺1人じゃ手に余る。お前達にも機兵で出て貰うことになるが――」


「お任せください。全員、いつでも出撃可能です」


「この命尽き果てるまで、犬塚特佐にお供させてください!」


 申し訳ない気持ちもあるが、「心強いな」と嬉しく思う気持ちもある。


 全員、俺には勿体ないぐらい優秀な部下だ。


 ウチの部隊には被害者オークが多い。


 コイツらのためにも、今回の作戦を成功させる必要がある。


 前線で命を散らしている兵士達のためにも、成功させる必要がある。


「じゃあ、そろそろ行ってくる。カペルが起きる前にな」


「お気をつけて……!」


 敬礼する部下達に見送られ、愛機に――<白瑛びゃくえい>に向かう。


 搭乗し、出撃しようとしたんだが――。


特佐とくしゃ~……!』


「あっ……! コラッ……!」


 機兵に搭乗して流体装甲を展開していると、声が聞こえてきた。


 舌っ足らずな声の持ち主が、格納庫に走ってやってきた。


 そして、格納庫の2階部分から飛び降りてきた。


 片手で軽々と持ち上げられるぐらい、小さな女の子が飛び降りてきた。


「…………!」


 機兵の腕を動かし、受け止めにかかる。


 部下達も慌てて動き、俺がしくじった時のために下方に走ってくれた。


 俺達の杞憂を余所に、小さな女の子は「ふわり」と宙に浮いた。


 背中に光り輝く翼を生やし、それで「フワフワ」と宙に浮き始めた。


「カペル……! 危ないことをするな! 飛び慣れていないのに……」


『ご、ごめんなさい……。でも、でもっ……特佐、いなくて……』


 部屋でスヤスヤ眠っていたはずの少女が、白瑛の手に降り立った。


 操縦席を開き、俺も同じところに向かう。


 背中に光翼。


 頭上に光輪を持つ少女――カペルが、笑顔を浮かべながら俺に抱きついてきた。


 笑顔を浮かべていたが、直ぐに心配そうな顔を浮かべ始めた。


「特佐、白瑛でどっか行くの……? 戦いにいくの……?」


「あぁー……。まあ、ちょっとな」


 これから作戦しごとなんだ、と告げる。


 カペルはさらに不安げな表情になり、ギュッと俺に抱きついてきた。


「ここ、交国本土だから……危なくないんじゃ……?」


「基本的にはな」


「また、悪い神器使いファイアスターターが出たの?」


 ファイアスターターは死んだ。


 今回やりあう相手は神器使いじゃない。


 武力そのものはファイアスターターより格段に弱い相手だ。


 これから作戦開始とはいえ、そこまで危険な相手じゃない――と説いたが、カペルは心配そうな表情を崩さなかった。


「か、カペルも……。カペルも一緒に行くっ!」


「大丈夫だ。留守番しててくれ」


「カペルの神器、使お? その方が、ぜったい勝てるよっ?」


「今回の作戦は、お前の手を煩わせるほどものじゃない」


 すがりついてくるカペルを抱き上げ、機兵の手から飛び降りる。


 不安げなカペルをあやしつつ、副長達に預ける。


「12時間以内に戻るから、副長達と仲良く留守番しててくれ」


「でも……」


「大丈夫だ。俺が負けると思うか?」


 自分自身を親指で指さしつつ、不敵な笑みを浮かべる。


 そうすると、カペルはブンブンと首を横に振った。


「特佐は、負けないっ! 犬塚特佐と白瑛は、交国でいちばん強いもんっ!」


「だろ? だから、任せておいてくれ」


 最後にカペルの頭を撫で、「良い子で待っててくれよ」と言って離れる。


 今度こそ出撃するために、操縦席に乗り込む。


 興奮気味に光翼と光輪を明滅させているカペルと、その傍で敬礼している部下達に機兵を使って敬礼を返す。……そろそろ行こう。


「管制室、聞こえるな? 誘導は任せたぞ」


『はい。お任せください』


「標的の現在位置は――」


『政務を終え、屋敷にお戻りになられたところです』


 操縦席内の画面に、交国首都の地図が表示される。


 首都の守備隊だけではなく、標的の位置が光点で示されている。


『首都の守備隊が厳戒態勢を敷いています。現在、10機の機兵が巡回中。戦闘開始から3分以内に待機中の部隊も出てくるはずです』


「3分あれば十分だ」


 仮に少しもたついたところで問題ない。


 10機どころか、100機いたところで、俺の<白瑛>なら問題ない。


 さっさと終わらせよう。


権能起動カノン。……これより、玉帝・・襲撃作戦を開始する」





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