オレにできること



■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:弟が大好きなフェルグス


『兄弟! 早く応戦しろ! このままでは……!』


『いやっ、でもよぉ……!?』


 丘の向こうから近づいてきた交国軍人達が、攻撃してきた!


 タルタリカじゃない。


 話が通じる相手が――通じるはずの交国軍人にんげんが攻撃してきた。


 エレインに「応戦しろ!」と言われてるけど――。


『は、反撃したら、交国軍人を殺しちまうんだぞ!?』


『倒さなければ、こちらがやられる!』


 交国軍に逆らったら、特別行動兵のオレ達なんてどうなるかわからない。


 それに、アイツらは話が通じるはずだ。


 ラートや、星屑隊の奴らみたいに……優しい奴もいるかもしれない。


 アイツらだって、撃ちたくて撃ってるわけじゃ――。


『町で起きた戦闘で、混乱してるんだ! オレが話をつけてくるっ!』


『兄弟……!!』


『アルっ! ラート達の守りは任せ――』


 アルに任せ、前に出ようとした。


 けど、砲撃が直撃し、止められた。


 奴らの後方から新手の機兵が現れた。


 向こうには機兵3機。それ以外にも、車に乗った奴らが攻撃してきてる……!


『に、にいちゃっ……!!』


『2人共、下がれ! 無理するな!!』


 アルが流体装甲で盾を作り、ラートの運転している車を守っている。


 オレ達は無理していいんだよ、と言っておく。


 マズいのは車が攻撃を受ける事だ。車に乗ってるオレ達の身体だけじゃなくて、ラートと技術少尉も死んじまうかもしれない……!


 その前に、早く相手の攻撃を止めないと――。


『待て! 待ってくれ! オレ達は敵じゃ……!!』


 武器を投げ捨て、両手を広げる。


 こっちに敵意はない。そう示したけど、攻撃は止まらなかった。


 相手の機兵が散らばり、三方向から撃ってきている。


 マズい……! 機兵オレが撃たれるだけならいいけど……!


『ラート! 逃げろっ!』




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:死にたがりのラート


「やめろ! 俺達は味方だ!!」


 通信で呼びかけるが、返事がない。


 くそっ、通信妨害がまだ――――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『やめてっ! やめてよぅっ……!!』


 なんでボクらのこと、撃つの?


 攻撃も抵抗もしてないのに、なんで…………なんで撃つの!?


 ラートさんなら、こんなこと絶対しない。


 向こうには……ラートさんみたいな人、いないの……!?


 交国軍の中にも、良い人は絶対いるのに!


 何で撃ってくるの……!? 何で――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:繊一号から脱出した交国軍人


『軍曹……。向こうの機兵、反撃してきませんが――』


「容赦をするな! 攻撃を続けろ!」


 敵機兵が流体装甲を厚くし、防御を固めている。


 このまま火力で押し切れるはず……!


「軍人様ァ。機兵を潰すより、効率的な方法がありますよぉ」


 サングラスをかけた一般人が囁いてきた。


「敵は巫術師。本体を潰せば死にます」




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:贋作英雄


『兄弟! 早く反撃を――』


 嫌な予感がする。


『このままでは――』


 これは、まずい。


『お前達が――――』


 敵機兵の銃口が動く。


 兄弟達の機兵ではなく、車に銃口を――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『――ラートさんっ!!』


 車が横転した。


 車の近くに、向こうの放った弾が飛んできて爆発が起きた。


 その爆発で車が吹っ飛ばされた。


 車から、ボクらの身体が飛んで行った。


 ラートさんは、ボクら以上に吹っ飛ばされていった。


『やめてッ!!』


 ラートさんが死んじゃう。


 にいちゃんが死んじゃう!




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:交国軍の機兵乗り


「っ…………!?」


 防御ばかりで反撃してこなかった敵機が、発砲してきた。


 やはり……敵かっ!


『巫術師の本体を狙え!!』


 狙いをつける。


 本体さえ、潰せば――――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:弟が大好きなフェルグス


『――――』


 アルが撃った。


 敵に反撃した。


 敵は、そのお返しとばかりに撃ってきた。


 誘導弾だ。


 オレ達の機兵を通り越して、誘導弾が飛んでいく。



『――――』


 飛んで行く方向に、ラートがいる。


 ラートが、転びそうになりながら走り出している。


 地面に投げ出されたオレとアルを庇うために、走っている。



『――――』


 ラートだけじゃ、無理だ。


 誘導弾あんなの、生身なんて簡単に吹き飛ばす。


 1人じゃ無理だ。



『――――』


 機兵は間に合わない。


 撃ち落とすのも、間に合わない。


 けど、



『――――あぁ、』


 オレ、まだ出来ることあるわ。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:死にたがりのラート


「――――」


 血で真っ赤の視界で走る。


 まだ生きている。


 まだ守れる。


 敵の攻撃が来る。


 2人を守らないと。


 守ると、誓ったんだ。



「――――」


 地面に倒れていたフェルグスが、動いた。


 身体の方に戻ってきたのか。


 フェルグスが、アルに覆い被さった。



「ラート。ごめん」


「――いいんだ」


 2人で守ろう。


 2人で、アルに覆い被さって――――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『あ――――』


 敵の誘導弾こうげきが爆発した。


 ボクの身体に覆い被さった、にいちゃんとラートさんの近くで。


『ああああああああッ?!!』


 爆発の炎が弾けた。


 皆、焼かれた。


 機兵に憑依中でも、痛む感触がした。


 2つ・・の痛みが――――。


『うわああああああああああああああああッ!!!』




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:交国軍の機兵乗り


「やった……!」


 巫術師本体に攻撃が命中した。


 倒した。


 仲間の仇を取っ――――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『――――』


 流体装甲で作った剣で、攻撃してきた「敵」を攻撃する。


 操縦席を狙う。


 そこに魂がある。


 背中まで剣で貫くと、また頭が痛んだ。


 でも、いい。


 次。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:交国軍の歩兵


「なっ……!?」


 敵本体を潰したはずなのに、敵機兵がまだ動いている。


 瞬く間に、仲間の機兵が2機もやられた。


 敵が、血と流体のついた剣を投げてきた。


 オレ達に向けて――――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:交国軍人


「貴様ァッ……!!」


 敵機が卑怯にも歩兵を狙ってきた!


 車両に乗って射撃し、敵の注意を引いていた歩兵を狙ってきた。


 剣を投擲し、ダメ押しとばかりに機兵の機銃で掃射してきやがった……!!


 歩兵が脅威にならない事なんて、わかっているだろうに……!


「よくも……よくも俺達の仲間をッ!!」


『やめろ! 接近戦は避けろッ!!』


 仲間の警告が聞こえた。


 けど、手遅れだった。どっちにしろ駄目だった。


 敵機は跳躍し、機兵オレを蹴り倒してきた。


「っ…………! なッ……!?」


 敵の跳び蹴りの衝撃で転倒する。


 何とか立て直そうとしたが、機兵が……機兵が動かない……!?


『早く離れろ!』


「き、機兵が操作を受け付けなくてっ……!!」


 これが巫術師の憑依か。


 駄目だ。操縦席の流体装甲かべが、勝手に動き出し――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:兄が大好きなスアルタウ


『ウアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 最後の機兵を壊す。


 憑依して、操縦席にいる人を流体装甲で潰して殺した。


 車から銃を撃ってた人達の生き残りが、まだいる。


 いっぱい撃って殺す。


 向こうと同じ誘導弾こうげきで殺す。


 ドローンも撃ち落とす。いっぱい、弾を使っちゃったけど、落ちていった。


 倒した。倒した。


 倒したけど…………!!


『にいちゃんっ!!』


 敵はもういない。


 全員ころした。


『ラートさんっ!!』


 まだ終わってない。


 2人を、助けないと。


 2人共、ボクに覆い被さっていた。


 2人共、ボクを守ろうとしていた。


 それなのに、ボク……なにも…………なにもっ……!!


『にいちゃっ……!! ラートさぁんっ!!』


 2人に呼びかける。


 動かない。


 2人共、身体が焦げていた。


 動かない。


 地面が触れている。


 いっぱい、赤いのが……ダラダラ、流れ出て…………。


『…………!!』


 まだ動いている人がいる。


 ひぃ、ひぃ、と言いながら、逃げようとしている人を捕まえる。


 技術少尉さんが、まだ生きてた。


 転んだ車の下に隠れていたみたいだけど、這って逃げようとしていた。


『逃げないで!!』


 いっぱい使って「じゅうじゅう」と焼け焦げている銃口を向ける。


 技術少尉さんが悲鳴をあげる。撃たない。信じてほしい。


 やってほしいこと、あるから。


『にいちゃんとラートさん、治して!!』


 技術少尉さんが何か言ってる。


 いや、でも……とか、むり……とか、言ってる。


 空に銃を撃つ。


『早くッ!!』


 技術少尉さんが、にいちゃんとラートさんのところに走っていった。


 転げそうになりながら走っていった。


 それを追いかける。


『にいちゃん達を、助けて……!!』


 まだ死んでない。


 ぜったい、生きてる。


 うそだ。


 こんなの……ぜったい、おかしい。


 2人が死ぬわけない。


 にいちゃんとラートさんは、何も悪い事してないのにっ!


 ウソだウソだウソだウソだ……!!


『……むり』


 技術少尉さんが何か言ってる。


 無理って言ってる。


 なんでそんなひどいこと言うの。


 なんでぇっ…………!!


『ヒッ……!! むっ、ムリなものは無理なのよぉっ……!!』


『治して!!』


『無茶言わないでよ!! こんなの、もう助かりっこない!!』


『やだ!! 治して!!』


『こんだけ血が出てるし、内臓だって……!! 設備も何もないのに――』


 いやだ。


 こんなの、いやだ。


『無理なのっ! こいつら、2人共…………アンタも、多分――――』


 ボクのせいだ。


 ボクが、どんくさいから――。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:【占星術師】


「チッ……。仕留め損なったか……?」


 いや、多分、マクロイヒ兄弟の本体は潰した。


 巫術師は本体を潰せば死ぬ。


 憑依中だろうが、本体が死に至れば遠からず死ぬ。


認識操作開始ナイトノッカー考察妨害ミスディレクション


「奴らは所詮、普通の・・・巫術師だ」


認識操作ナイトノッカー休眠状態移行スリープモード


 これで殺せたはず。


 最初から大した脅威じゃない。


 けど、念には念を――


「軍人様! 仲間の仇を討たなければ……!」


「……そうだな」


 少々予定と違うが、問題ない。


 二の矢も用意している。


 俺は遊者プレイヤー


 予言の書を与えられた特別な存在。


 俺は未来を知っている。


 予言の書により、貴様らの逃走経路も知っている。


 俺は運命を知っている。


 貴様らが辿り着く運命エンディングも、当然知っている。


 知っているからこそ、容易に運命をねじ曲げられる。


 労働者ノンプレイヤー如きが、運命さだめを変えられると思うな。




■title:タルタリカに踏みならされた大地にて

■from:スアルタウ・マクロイヒ 契約保険バックアップ残数システム:2


『2人を助けて……!』


『ムリだって言ってんでしょォッ!!』


 やだ。


 また、守られた。


 ボクが、にいちゃんとラートさんの足を引っ張った。


 お父さんとお母さんみたいに……また、ボクの所為で――。


『――――』


 何もできない自分がイヤだった。


 いつも、にいちゃんに守られてきた。


 ラートさんやヴィオラ姉ちゃんに頼って、泣いてばっかりだった。


 ボクは、何もできない。


 皆のために、何もしてあげられない。


 ……イヤだ。


 何も出来ないのがイヤだから、ボク、ラートさんみたいに――――。



『じゃあ……捨てるしかねえの……?』


『いや、まだ使えるパーツもあるから、ニコイチ機兵を作るよ』



 前に聞いた話。


 前に、そう聞いた。



『それぞれフレームと混沌機関抜いて合体。それで使える機兵を作るんだな』


『――――』



 できること、ある。


 そうだ。


 まだ、ボクにだって出来る事がある。



『血……。血があれば、いいんでしょ?』


 血があれば、2人を守れる。


 まだ助かる。



『無いから言ってんのよっ……! というか、あったところで――』


『血ならあるよ。そこに・・・、いっぱい』


 機兵の指で指さす。


 使える血が、そこにいっぱいある。


 使えるはず。使った事ある。ラートさんには一度輸血したことある。



『お願い。にいちゃんとラートさんを助けて』


『アンタ……なに、言って……』


『たすけて』


『じ……自分が言ってること、わかってんの……?』


『2人をたすけて』


 技術少尉さんが真っ青になって、「いや」「むりよ」と言ってる。


 機兵で威嚇すると、ムリって言わなくなった。



『おねがい』


 ボクだけじゃ、何もできない。



『にいちゃんと、ラートさんを助けて』


 これぐらいしか、できない。




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