第8話

いやぁ、斗真ってやっぱり世界一可愛いと思う。

男に可愛いとか言うのは少しあれかもしれないが、当時20代で1年経っても急上昇中だったあのドラマに出演していたAさんが、こう言っていた。


”『可愛い』は最強なんです。『かっこいい』の場合、カッコ悪い部分を見ると幻滅するかもしれない。でも、『可愛い』の場合は何をしても可愛い、『可愛い』の前では服従、全面降伏なんです!”


可愛いは最強。本当にそうだと思う。今までは、『可愛い』という言葉は女性に対してのみ使われるものだと思っていた。


もちろん、男だったら男なんだから『かっこいい』と言われたいに決まっている。

だが、かっこいいの最上級が『可愛い』だとしたら…?


「最高の褒め言葉じゃないか。」

「なにが?」

「ぅわあ?!」


いつの間に背後に将斗がいたようだ。変な顔をしていなかっただろうか。いや、変な顔というのは変顔とかそういうのではなくて、変にニヤけていたりとか…そういうことだ。


将斗はよっこいせと俺の真ん前に座った。顔はイケメン、中身はジジイじゃねえか。


「いやぁしっかし、お前も変わったよな。」

「え?」


将斗はいやだってさ、と言いながら持ってきたコーヒーを一口飲む。


「今までは恋なんてしたところで…みたいな感じだったお前がさ、初めての恋人ができて、初めてを共にして、ついには妄想までするようになっちまったんだから。」

「妄想じゃねえよ。」

「じゃあさっきの、『最高の褒め言葉じゃないか』ってやつ、説明してもらえる?」


こいつ…本当に厄介なやつだ。まあ、大学の食堂で俺が遠くを見ながら斗真の顔を思い出して、愛おしく思ってた俺が悪いんだけど。


うわ。こいつの目は、お前の話を聞くまではここを去らないって言ってる。こうなると、引き下がらないんだよなあ…


「はぁ…。わかったよ。その代わり、飲みもん奢れ。」

「はいはいっと。」


俺は話を聞いてから買いに行かせると絶対約束を破ると思ったので、今行ってこないと話してやらねえと言ったらすぐさま買いに行った。


「(でもなぁ…そんな大した話じゃねえと思うんだけどな…)」


少し経ってから将斗が帰ってきた。

はいよ、と俺にコーヒーをくれると、また真剣な顔へと戻った。


「お前は、可愛いって言葉、どう思う?」

「は?」


勘の良いイケメン男はこの話がいかにどうでもいい話で、惚気話かに気づいたようだ。だがもうここまできたんだ。とことん付き合ってもらうぞ。


「可愛いって言葉、俺がまだあいつと付き合う前、女用に作られたものだと思ってた。だがしかしだ。可愛いという言葉はかっこいいの最上級。つまり、可愛いは最高の褒め言葉なんだよ。よくさ、言うだろ?海外でも男に対してキュートって言葉を使う。そいつはくっそイケメン。そういうことだ。」


あぁ、そうかそうか、と俺の話を遮ろうとする将斗に俺は続ける。


「斗真もさ、くっそ可愛いんだよ。大学では一切見せないあの顔。可愛い顔。俺だけしか愛せませんって顔。俺のためだけにこの世界に生まれてきたんですって感じ。たまらん。あの顔を、アイツの存在を一番近くで見れる俺ってバチクソ幸せなんだなと。俺にとって世界一可愛い男に愛される俺って………最高じゃね?」


「それで話は終わりかー?」


なんだよこいつ。もう飽きてやがんの。前は笑いながら女子じゃなくて男子にモテるのなとか言ってたくせに。いざ、本気の恋愛が自分のもとにくるとこれかよ。


「うーん終わりと言えば終わりだが、終わりではない。」

「まだあんのかよ…」

「お前が先に首を突っ込んできたんだぞ。」

「珍しくお前がめんどくせえ。」

「それでだな、俺さ、大学卒業したらやりたいことあるんだ。」

「なんだ?」




「俺、斗真と結婚しようと思う。」

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