第5話
「家のドア前まで来たら、目瞑ってくださいね。」
斗真は帰宅途中に俺にそう言う。ワクワクしそうで、相手が斗真なことだけあって、
少し恐怖を覚えている。だが、俺は斗真を信じることにする。斗真は、俺に対して
気分を害するようなことはしない。
「先輩、今日夜ご飯なににしたかったですか?」
ん?謎に過去形?まるで、帰宅した瞬間に料理が出来上がっているとでも言っているような口調だ。この言い方なのだから、当然俺のリクエストが通ることはないのであろう。とりあえず、今の気分はコロッケだ。
「コロッケ、かな。」
「お、よかったです。コロッケ、家にちょうどあるんですよ。」
家にちょうどある…?俺をどれだけ知り尽くしているというのだこやつは。もはや俺の母親なんじゃないかと思ってきてるぞ。
「あれか?冷凍のやつか?」
「俺、愛する人には冷凍食品をむやみに使わない人なんですよ。」
「多分だがその発言は少し敵がつくかもな。あくまで、お前が、だな。」
斗真はハッとした表情をして、すみませんと言った。別に俺に謝れと言っているわけではないのだが。
…ちょっと待てよ?
「お前…今、俺に対して『愛する人』って言ったか?」
俺が率直な疑問をぶつけると、斗真はいきなり歩く足を止めた。そして、ものすんごい形相で、こちらを睨みつけてくる。
ん…?なんか、怖いようで怖くない。なぜか。俺には答えがわかっているように思うからだ。そしてそれは的中していたらしい。
「あの、何回も言ってますけど、俺の大好きな人は今も過去も全く変わっていませんよ?お互い大学を卒業したら結婚しようと思ってますんで。」
俺は半笑いしながら、いやいやと続ける。
「俺も俺だけどよ、世の中は異性同士での結婚が主流。同性同士は結婚ができないんだよ。婚姻届さえも受理されない。法律上、同性婚は認められてないんだよ。」
俺は冗談を交えながらの俺なりの真面目な話をしたら、斗真の歩くスピードが次第に遅くなっていった。そして、少しため息をついた。
「とうm…」
「なんで、同性婚は認められないのでしょうか。なんで、愛する人との婚約が受け入れられないのでしょうか。愛する人がただ、俺と同じ性別なだけなのに。」
「…」
斗真の言っていることは完全には理解できない。だって、斗真と付き合う前、俺は男女交際が一般だと思っていたからだ。だが、今でもその考えは変わっていない。斗真と共に生きていようがなんだろうが。
男同士で愛し合う、なんて世間は「気持ち悪い」と感じる人が多い。俺もその1人だった。それをすぐに変えるなんてことはできない。でも、俺が言えるのはただ一つ。
「他人から認めてもらおうなんてこと、しなくていいんだよ。お互いが好き同士、愛し合っている。ただそれだけでいいんだよ。」
俺は斗真の手をとった。
「ほら、斗真。楽しいパーティーが待ってるんだろ?楽しもうじゃないか!俺達だけで!」
俺は今日1最高の笑顔を見せると、斗真も少し笑ったような気がした。
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