第13話
「はぁ…」
ああ、どうも。俺です。クソ人間代表の菊地です。今俺は、大学の屋上の隅っこにいます。なんでかって?なにもかも疲れちまったんだよ。あ、別に病んではない。
定期試験は終え、成績も出て、留年は回避成功。そこまでは全然ご不満なしなのだ。
最近、やたらと田中斗真の視線やらスキンシップやらがつらくなってきた。
で?なんかあとは、噂によると、真美が俺を好きだとかなんとか…
俺はこれまでの人生、恋愛とか一切考えたことなかったからな…
ま、まああのマドンナのことは好きだったがな。そんなもんだ。
ピロン
「っひぃ。…なんだ。シフト表のお知らせか」
最近は、通知音にも敏感になっている。また斗真から連絡が来たのではないか。
また真美からのお誘いメールが来たのではないか。
だからここ数日は、スマホの解約も試みた。だがしかし、俺はそういうスマホの設定諸々をまた一からやらなくてはいけないのが面倒だし、シフトやら何やらのトラブルがあって瞬時に対応がきかなかったら店長に怒られるので仕方なく解約はしなかった。
だが、その代わり学校の時間はスマホを切っていた。今は、スマホの存在が邪魔。今の学生には到底辿り着かないような考えだろうが、俺にはそこまでの感情になってしまっている。
誰かに相談ができるわけでもない。唯一の両親でさえ、俺は軽蔑している。
「はぁ…うまくいかねえなぁ。」
あぁ。今すぐ、雲の上に行きたい。いや、死にてぇって言ってるわけじゃねえぞ?
そのぐらい、楽になりたいってだけの話だ。こういう俺のことを、「社会不適合者」というのだろうか。
その時。屋上の扉がカチャッと開いた。もうやめてくれ。俺に構うなと思ったがそこにいたのはまさかの将斗だった。
「おぉ、陽平じゃねえか。珍しいな、こんなところにお前がいるなんて。」
「俺も人間だからな。たまにはこういうところにも来たくなる。」
そうだ。川上がいるじゃねえか。何が『誰かに相談ができるわけでもない』だ。
いるじゃねえか、その誰かが。
「なあ、将斗。相談したいって言ったら親身になって聞いてくれるか?」
俺が唐突にそんなことを言うので、将斗は一瞬固まったが、すぐに返答した。
「親友が困ってんのに、助けねえバカがどこにいるんだ。」
この言葉には少し敵が湧きそうだが、まあ将斗はそういうやつだ。
「ありがとう。」
俺は、今の悩み事を全て
将斗は、俺の話を遮らずに真剣に聞いてくれた。そんな将斗を見て、俺はなんて優しい友達を持ったのだと実感した。こんなクズな俺のそばにずっといてくれる男子友達なんて川上将斗だけだ。
「…ごめんな。こんな話ししちゃって。」
「だって、お前もつらかったんだろ?」
「まあ…正直…な。」
俺は普段こんな弱った姿を誰かに見せるなんて真似しない。
俺は自称鋼のメンタルを持っている男だから、プライドがあった。
こんな風に誰かに相談したのはいつぶりだろう。人生初、と言っても過言ではないのかも知れない。いや、過言なのかも知れない。
「俺は考えてたよ。お前、いつぶっ壊れんのかなって。」
「え?」
「いや、お前さ、絶対鋼のメンタルの持ち主だとか思ってるだろ?俺はお前の日常を見てて思うよ。すっごく繊細で優しいやつだって。だけどな、お前はこの社会によって何もかもを変えられちまったんだよ。だから、余計この社会で生きづらくなってる。本来の菊地陽平ではいられなくなってる。陽平は偽りの陽平を毎日演じてる。でも、演じていない瞬間もある。それは、俺と岸島ちゃんと田中斗真くんと一緒にいるとき。いつもの菊地陽平な気がする。」
将斗一通り話し終えると、黙ってしまった。
…俺が繊細で優しいだって?そんなわけない。だって、俺はクソ人間の代表を名乗っている。だが俺はとある日の出来事を思い出した。
『お前についてよく知りたい』
『先輩だけは、俺、正直な姿でいて良いんだ、って思ったんです。俺自身も理由はわからないです。』
あのときの俺はそんなつもりはなかったが、もしかしたら斗真のことをもっと知りたかったのかも知れない。相手は男だが、自分を好きになってくれた人のことを何も知らないで放っておくわけにはいかないと感じたのであろうか。
〈先輩だけは、俺、正直な姿でいて良いんだ、って思ったんです。〉
俺だけには…か。
「いつからか俺も、あいつに心許してたのかも知れないな。心を許してたからこその悩みなのかもなぁ。」
「そうだな。ここからはお前自身で解決したほうが良いと思うぞ。俺はもう戻る。俺からのアドバイスとしては、田中斗真くんに真実を打ち明けることだな。じゃあな。」
将斗はそう言い残して、屋上を後にした。
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