第12話

「先輩…、俺もう限界です…!先輩、だめ…ですか?」

「だめに決まってるだろ。明日だぞ明日。」


説明しよう。「まさかあんなことやこんなことを拒んだの?」と勘違いを招くかもしれないから言うが、今俺達が限界を迎えているのは、明日から始まる定期試験の勉強だ。ったく…斗真が紛らわしい言い方するから…。


「今お前、なんの勉強してんの?」

「英語です…」

「英語で限界迎えてんのか。」


こいつは意外に、勉強が苦手な後輩なのである。かといって、俺も勉強に関してはあまりいいことは言えないが、なぜか英語だけはいつも点数が高い。


「教えてやろうか。」

「先輩、英語できるんすか…?」

「俺的にはできるとは思っていないが、なぜかいつも点数は高いぞ。」


斗真はしばらく口を開けてポカーンとしていた。


「なにがわからないんだ?」

「全てです。」


出たよ。勉強が苦手な人特有の一言、「全部」。

全部って言われてもどこをどう教えたら良いのかわからねえっての。

俺は先生でもなければ親でもないからお前の弱点ポイントわかんねえっての。


「流石に受動態はわかるよな?」

「…ふふ。…」


あーだめだこりゃ。斗真の顔がにっこりになってそのまま硬直している。

こりゃ、基礎中の基礎から固めなきゃいけない系か?


「be動詞と動詞の違いはさ・す・が・に、わかるよな?」

「同じものじゃないんですか…?!?!」

「お前、よくこの大学入れたな。想像以上だぞ。」

「いやぁ、それほどでもぉ。」

「褒めてない。」


こんなにも斗真の野郎は勉強が苦手だったのか?

とりあえず、あと11時間後にはテストが始まる。俺らはこんなんでいいのであろうか。これも”多様性”って言葉で収められないかな。無理か。


「で?どこがわからないんだ?」

「関係代名詞が全然わからなくてぇ…!!」

「あーそこな。今回の範囲の中でも一番むずいって言われてる箇所な。えっとな、説明するのが人間だから関係代名詞は…」


初めてこの俺が人に勉強を教えている。明日雪でも降るんじゃねえの?


しばらく教えたあと、俺たちは解散した。


(ふぅ…やっと帰った…)


ピコン


俺のスマホの通知音が静かな部屋に鳴り響く。こんな時間に一体誰から来たってんだ。まあきっと、斗真とかそこらへんの人間だろうな。

俺はスマホを開き、通知欄を見ると、予想外の人物だった。


『真美:ねえ、今少し時間ある?夜分遅くにごめんなさい。ペアワークについてのご相談なんだけど、寝てたら寝てたで別に大丈夫よ。』


珍しいもんだ。真美からメッセージが来るなんて。それにしてもペアワークについての相談か…別に受けてやらんこともないが時間が時間なんだよな…


既読無視をするか、それとも未読無視をするか、はたまたそれとも普通に返信をするか。ああ、迷うな。かといって、真美は別に話が長くなるようなそんなめんどくさい女のタイプじゃないんだよな。要件が済んだらそれっきり。俺にとってはありがたい性格の持ち主だ。


俺は、返信することにした。


『まだ起きてたよ。すまないが、明日から試験ってのもあるし、時間が遅いからまた今度相談受けるよ。わざわざありがとうな。おやすみ。』


俺はそう返信して、眠りについた。

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