第11話

「え?今、この俺にバレンタインのチョコあげるって言ったか?」

「ええ、言ったわよ。」


真美は当然でしょと言わんばかりの顔をしてそう言う。


いやいや、彼女いない歴20年、モテ期0の俺がなぜ、今このようにして真美からチョコをもらおうとしているのか。


「あのさ、相手間違えてねえか?ほら、ほんとは将斗にあげるつもりのものだろ?」

「え?違うわよ。間違えてなんかないわ。これは、菊地くんのためのチョコなの。」

「いや、だからなんで俺なの?もっと他にイケメンいるだろうよ。こんなクソ人間の代表みたいな俺なんか構うなよ。」


俺が真美にそう言うと、真美はなぜか大きくため息をついた。


「あのさ?別にいいじゃん。私が誰にあげようと私の勝手でしょ?ほら。受け取りなさいよ。」

「なにもそんな強引に渡さなくたって…」

「あーもう!!私は菊地くんのことが!…」

「…俺がなに。」

「いえ、なんでもないわ。とりあえずあげる。絶対感想聞かせてよね。」

「ふっ。めんどくせー女だこった。」

「めんどくせーって…?!もう仕方ないわね。なんとでも言いなさい。じゃあまた後でね。」

「おう。」


会話が終わると真美は大学へと直進していった。


…うわぁ。初めて女子からチョコもらったあああ!!!!!

男からももらったことねえのに!いや、それは普通か。

いやでもまじか。くっそ嬉しいんだが。


…ん?なんか。すごい視線を感じるな…。うん、もう予想はついてる。田中斗真だろ?


俺が後ろを振り向くと、斗真だけでなく川上将斗もいた。


「なんでお前らが一緒にいるんだよ。一応先輩と後輩の関係だぞ。」


将斗は、少しふふふと笑って、言う。


「いやさ?この斗真くんが俺のこといきなり捕まえてきてさ。なんだなんだと思えば、陽平の発見ってわけさ。」

「はぁあ?!浮気とはなんだごらぁ!ただの講義メイトだろうが!!」

「へえ?そうかね。チョコもらったとき陽平、岸島きしまちゃんの胸とチョコ見てニヤニヤしてなかった?わかるよ?岸島きしまちゃんってほんとおっ◯いでかいのにクールだからエロいよね?あんなの惚れるしかないよねぇ〜」

「それ以上言ったらてめえを病院送りにさせるぞ。」

「ひゃーこわーい」


なんにも感情がこもっていない声でこわーいなんて言われたらもっと地獄に叩き落としてやりたくなる。まあ、なぜそれができないか。将斗の言ったことは一概には合っているからだ。


まあ、んなこと言ったら胸しか見てねえドスケベ野郎みたいに思われそうだけど、言っとくけどな、俺はドスケベ野郎じゃなくてクソ野郎だ。そこんとこの区別よろしくな?


「先輩」


ああ、そういえば斗真もここに居合わせてるんだった。忘れてた。


「なんだ。」

「その…これ。」


斗真がそう言って差し出してきたのは、チョコであった。


「…は?」

「バレンタインですっ!!」

「いやいや、男が男にバレンタインはないだろ。」

「陽平。今は、多様化の時代だよ?その昔からの印象を色んな人に押し付けるのやめな?」


ほんとうっせーな、多様化多様化ってよぉ。多様化の時代だって言って丸く収まる話じゃねえよ。意味わかんねえだろうが。まあ、男同士で熱い夜を2回過ごしてる方がもっと意味わかんねえけどな。


「受け取ってもらえませんか…?」

「あぁ?…ったく、仕方ねえな。今回だけだぞ。」

「そんなこと言って、ホントは嬉しいくせに。」

「黙れ。お前は一生口を慎めこのモテ男野郎が。」

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