第10話

「せんぱーい!!!」


講義を終えてコンビニに行こうとすると、聞き馴染みのある声が後ろからした。

振り返ると案の定、田中斗真がいた。 


「どうした?」

「先輩を見つけたので、一緒に帰ろうかなと。それと…」


それと?なんだかいつもの感じじゃないからいつもより少し不安だな。

その上、斗真の表情もいつもとは違う。なんだなんだ、なにがこれから来るっていうんだ?


、どうでした?」

「ゴホッヴォホッ」


まさかのそれが来るなんて思いもしていなかったものだから、咳き込んでしまった。


「いきなり公共の場でそんな話するかよ?意味わかんねえ。」

「でもぉ…あのときぃ…先輩、可愛かったなぁ…?」

「あのときはあのときの俺、今は今の俺だ。区別をちゃんと付けろこのあほが。」

「あほはひどくないですか!!」

「お前にはあほぐらいがちょうどいい。」


斗真はほっぺを膨らませ、今にもむー!と言いそうなのだが…


めちゃくちゃに可愛い。


もうなんか、可愛いって思うことに対して何も思わなくなってきたぞ?

もし斗真に俺の心の声が聞こえてたらやばかっただろうな。

公共の場なのに襲ってきそうだもんな。


「先輩?どうしました?」

「ん?いや?なんでもねえよ?」


そうですか、と何処か寂しげにしゅんとなっている斗真。い、いや、ほんとになんでもねえからな。


「あ、菊地くん!」


なんだ?また後ろから声がしたぞ?と思ったら、真美まみであった。


「なんだ?なんか用か?」

「あ、もしかして今お友達と帰る感じだった?」

「ん?いや、バイト行こうとしてただけだ。何か用があるならバイトの時間遅れさせてもらうけど。」

「あ、ほんと?じゃあお願いできる?今日の講義でペアワークあったじゃない?それの締切がかなり迫ってるから、今日できる限り終わらせたいなと思ったんだけど。」

「了解。…じゃあ斗真。そういうことだから。」


俺は斗真にじゃあなと言って真美と一緒に課題に取り組んだ。



****


「なあ、斗真。いつまでそうしてるつもりだ。」


俺が課題から帰ってきて、バイト先に来たときにはもうこれだ。なんだ?嫉妬か?ふざけんなよ。勝手に嫉妬していやがる。俺はお前の先輩であり、決して恋人でも兄弟でもない。


「先輩。」

「うお、びっくりした。いきなり声を出すな。」

「あの女の人、誰だったんですか?」

「あのって、真美のことか?」


多分、とこくこく頷いている。


「あー真美は、講義でたまたまペアになっただけの女だよ。」

「なんで真美”さん”って言わないんですか!」

「そりゃ、真美にさん付けは嫌だからやめろと言われたからだが?あのな、お前の言いたいことはなんとなく目に見えてる。だが、俺はお前のことをさん付け呼んだことはない。だろ?」


確かにそうですけどぉ…とまたもやしゅんとしている。

本当に…なんなんだこいつは…。世の女子共はこいつのことを、「子犬」と呼ぶのであろうか?俺はそんな風には呼ばないがな。


「まあ…そんなしゅんとしてても、バイトに支障がきたすだけなんだからもう忘れろよ。」


俺がこの言葉を言ったことで、斗真を奮い立たせてしまった。


「あの、先輩…。」

「なんだよだかr…」


俺がすべて言い終わる前にはもう斗真の唇が俺の唇と重なっていた。挙句の果てには、舌まで入れてきやがった。


俺は勢いよく斗真を突き倒した。


「おい!!ここ職場だぞ!!!公私混同するやつは、社会には向いてない。」


俺が珍しくちゃんと怒ってもまだ斗真は懲りてなかった。


「公私混同…ねぇ。先輩だって公私混同してるじゃないですか。ほら、。」


斗真は俺の目線よりも下の部分を指差していた。

明らかに、俺の息子を指さしている。


「BOKKIしてますよ。」

「かっこよくアルファベットを並べるな。」


そんな事を言っていると、斗真はどんどん押し寄せてくる。


「なあ、いくらなんでもここは職場だ。にしてくれ。」


俺はこれを言った直後に後悔した。


「違うところ…ならヤってもいいんですね?」

「はあ…なんでこうなるかね…?」

「先輩が誘ってきてるんですよ?先輩は罪深い男です。」

「お前が言うな。」


まあ、皆の想像通りだが、あれから俺は斗真の家に行ってなんだかんだ熱い夜を過ごしてしまったよ…。また勝てなかったな…。いつかは勝ちたい。





****


補足と言ったらなんですが、今回初登場の岸島真美きしままみちゃんのイラストを載せておきます。

下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/users/_harunohi_143/news/16818023213536584652

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