第7話

結局あれから、斗真の勢いに負けて、飲みに行くことになった。

俺はあんな性格だが、酒にはかなり弱いもんで、一杯でかなり酔いつぶれてしまった。


一方斗真はというと、あいつはお酒にかなり強く、俺が酔いつぶれて記憶がはっきりしなくなってから以降もなお、5杯ほど飲んだと聞いている。


俺にとっちゃあ、酒を5杯飲むことはほぼ、死ぬのと同じことだ。

いや、流石に言い過ぎたかもしれんな。


俺が酔いつぶれて、あんときの俺が歩けねえやらなんやら情けないことを言ったらしく、斗真が俺を家まで運んでくれたそう。


んで、なぜか今俺は、斗真の家にいる。


「なあ、なぜ俺はここにいる?」


リビングで何やら飲み物を注いでいる斗真にそう問いかける。


「え、俺言いましたよね?家まで運びますね、と。」

「そこは俺の家に運んでくれよ…なんでお前の家なんだよ…」

「ふふ。まさか先輩、覚えてないんですか?」

「は?なにを。」

「先輩が酔いつぶれて、俺もそろそろ酔ってきたから帰らないとまずいってなったときに、先輩に聞いたんですよ?『先輩よかったら俺んち来ます?』って。そしたら、『行きたい。』ってすっごいかわいい声で言ったんですよ?」


ああ…穴があったら今すぐその穴に入りたい…。もうそんなのこれっぽちも覚えてねえよ…


「あぁ…あのときの先輩、世界一可愛かったです。」

「その記憶をこの世から抹消しろ。」

「嫌ですよ。その代わり、誰にも言いませんから。」

「当たり前だ。言ったらぶっ殺すからな。」

「ひゃー怖い怖い。」


斗真は少し半笑いになりながら俺に、飲み物を渡してくれた。

俺は斗真に、さんきゅ、とだけ言った。


「あ、そういや、今何時だ?」


俺がこの部屋の時計を探すも、時計が見当たらない。


「すみません、この家、新築なもんで、時計まだ置いてないんですよ。ほら、家具もまだ揃っていないでしょう?」


言われてみれば確かにそうだ。必要最低限のものしかない。

冷蔵庫、電子レンジ、掃除機、洗濯機、その他諸々。

でも、大学1年のコンビニバイトにしては、かなり良さげな家だ。

俺の家とは比べ物にならない。


「なあ、なんでお前の家はこんなにも綺麗…というか豪華なんだ?」

「大学入学祝いですよ。あ、父からのです。母はそういうのには厳しいので。俺ごときに家なんか買うんじゃねえ!って。当時俺が受験勉強していたときに母が父に怒鳴っているのが聞こえてきました。」


なんか、こういう話を聞くと、斗真の家庭って結構シビアなんだな…。


「でもまだお前はいい方だよ。俺なんて両親に愛されてないからな。だからあんななんとも言えない家に住んでるわけだし。」

「まあ、ご両親に愛されていなくても俺が先輩を目一杯愛します。」

「余計なお世話だ。」


斗真はまた少し笑って、なにか思い出したような顔をして俺に言う。


「先輩、今晩は泊まっていきませんか?あ、やましいことを考えてるんではなく、単純にもう遅いですし、先輩もそんな状態じゃ、動く気力もないでしょう?今夜は特別にお泊りさせてあげます。」

「誰のせいでこうなったと思ってんだ。ったく…。まあ、今回ばかりはお前の言う通りだ。今夜はここに泊まるよ。」


斗真は嬉しさを隠せていない表情で、了解しました、とだけ言ってどこかに行く。

このあと、俺は予想外な出来事が待ちわびていた。

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