第6話

「先輩って好きな人いないんですか?」


また唐突にこの田中斗真とかいう男は聞いてくる。


「この俺に好きな人なんぞいるわけないだろ。悲しいこと言わせんな。」

「いや、恋人いますか?なんて言ってませんよ。好きな人がいるか否かです。」

「え?ああ、間違えたわ。好きな人ねぇ…」


俺の好きな人と言えば思い当たる人物はあの子かな。


あの子、というのは俺が高校生だったときの女だ。

そいつは、弥代由衣奈やしろゆいなっていうんだ。


弥代は、学校のマドンナ的存在であった。

だから俺みたいなやつに、到底敵わない女だったさ。


そう知っていたとしても、俺は弥代が好きだった。

告白?あー…嘘告ならしたよ。ん?最低だなって思ったか?

だから言っただろうが。俺は恐らくこの世で最も最低な人間だよ。


そんなことどうでもいいんだよ。まあ、とにかく俺が初めて好きになった…つーか

一目惚れ…っていうんかね。その人は弥代だよ。


「てかそんなこと聞いて、何のメリットがあるんだよ?」

「メリットもデメリットもありませんよ。別に好きな人聞くくらいいいじゃないですか。」

「はぁ…」

「なんでため息つくんですか!流石にひどくないですか?」

「いやさ。普通後輩がそんなこと聞くかよ?こういうのって、俺らみたいな大学生は、合コン行って女から好きなタイプ聞かれたり女に聞いたりして出会い探すもんだろうが。なんで、お前みたいな意味わかんねえ後輩のために俺の昔話しなきゃなんねぇんだよ。」


斗真は不服そうな顔をする。そんな顔されたらなんか…心が変になるな…。


「もちろん、俺の好きな人は先輩ですよ!」

「聞いてない。」


斗真は俺のその言葉を待っていたかのようにわかりやすく照れた顔をする。


俺も俺でおかしい話だよな。関わりたくないなら自ら距離を置けばいいじゃないか。

でもなんでかわからないが、斗真と一緒にいるとなんていうか…

落ち着く…んだよな。

俺だってこんな感情おかしいなとは思ってるよ。

まさかな?まさか俺が男子を、しかも後輩を好きになるはずがない。

俺の恋愛対象は俺が生まれ変わっても女だ。ずっとそうだ。


「やっぱ、先輩は俺に振り向いてはくれませんよね。だって、恋愛対象はきっと女性ですもんね。俺みたいな変なやつ、恋愛対象外ですよね。」


斗真は悲しそうな顔でそう言う。まあ、確かに斗真は恋愛対象外かもしれない。

でももし、俺の恋愛対象が変わったら?今じゃ到底考えられない話だが、仮に

俺が女性を好きにならなくなったら?俺はこいつを好きになるのか?


まあ、将来的にはそうなるかもしれないよな。

誰にも未来なんてわかりっこないもんな。


「先輩、一緒に飲みに行きましょうよ。」

「は?なんで今から?」

「バイトも終わったんですし、講義も終わりましたし、明日からは冬季休業ですよ?少しでも先輩と過ごしたいんですよ!」

「いや…そんなこと言っても、今お前何時だと思ってんだ?」

「夜の9時です。」

「よし整理しよう。まずなんでお前は今の今までずっと俺の家で居座ってるんだ?バイトが終わった、ああそうだな。その後お前はどうした?」

「また先輩の家に行きたいですと言いました。」

「それも強引にな。ほぼあれは強制だったさ。それで?何時間いた?」

「少なくとも、3時間はいますかね?」

「いすぎだ。」


斗真はえへへと照れるが俺はそんなの気にしない。意味がわからん。

先輩の家、しかも俺の何も取り柄もない家になぜ3時間も居座ることができるんだ?

その精神、根性は別の所に活かしてもらえるとありがたいのだが。


「で、お前は今から飲みに行こうと俺を誘った。俺と過ごしたいという意味わからん理由で。」

「意味わかんなくないですよ!ちゃんとした理由です!」

「ちゃんとした理由じゃねえだろうが。俺はお前の兄でもなんでもない。コンビニ店員としてあのコンビニに会わなければ俺はお前を知らないし、お前も俺を知らない。俺、お前の告白断ったはずだよな?執着が半端ないぞ。」

「はい、確かに断られましたよ?だけど、別に先輩後輩としては一緒にいてもいいですよね?」

「よくな…くはない。」

「ほら。」


くそ…こんなやつの意見を珍しく肯定してしまった…。

まじで斗真と出会ってからの俺、ずっとおかしいぞ?

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