第5話

「おお…」

「だから言っただろうが。」


斗真は、想像以上だなと言わんばかりに、俺の部屋全体を見渡して、

それだけ言う。


俺の部屋はなんていうか…人生に追い詰められてるような…いや。人生ジ・エンドみたいな部屋だ。ゴミ屋敷…ほどではない。なぜならば、俺は案外綺麗好きなのだ。


ゴミが溜まったら出しに行くし、ゴミは分別するから…まあ。

自炊はしない。めんどくさいとかじゃなく、できない。

やる気もない。かといって、彼女を作って彼女に作ってもらうとか言う思考回路もない。というか、彼女を作る気力もない。


異臭が漂ってるわけではないが、斗真がなぜおお…だけ言ったのかはわかる。

うまく表現はできないが、なんとなく雰囲気がそんな感じだからだ。


「えっと…僕、帰ったほうがいい感じですかね?」

「やめろ。ここで帰られたらもっと気まずくなる。」

「じゃ、じゃあ、僕はどうすればいいですか」

「とりあえず、一緒にいてくれ。」

「え?!それって…僕のこと好…」

「そういうことじゃない。勘違いすんな。」


ったく。斗真は一体何を考えてんだか…


「まあとりあえず、座れよ。」


斗真が俺の顔を見て、どこに?という顔をしたので、俺はベッドを指さした。


「え、本当に先輩のベッドをお借りしてもいいんですか?」

「ああ。(本当はなんだけどな)」


俺の心が見えていたらこんなことを思っているんだなと思われるとまじで恥ずかしい。俺最近思うんだよな。俺、斗真に少しずつ心開いていないか?と。


でも心の何処かでは、そんなはずはないと思っている。


「なんか食うか?」

「先輩の家には何があるんですか?」

「んーと…豆腐と、納豆と、酒とコーラとカップ麺かな。今思い当たるフシは。」

「やっぱりそのくらいですよね。」

「お前絶対今、一人暮らしあるあるだなとか思っただろ。」

「まあ、はい。」


そんなに正直に答えられちゃ、それはそれで虚しくなってくるからやめてほしいわ。


「まあ、とりあえず、カップ麺でも食うか?」


俺がそう言うと、斗真は俺の目を見て、とんでもない巨大生物に襲われているかのような反応をした。


「え、食わねえの?」

「だって…だって…」

「何だよ言ってみろよ」

「俺、実は、カップ麺が嫌いなんです…」

「・・・。ぶーわっっはっっはっはっはっはっは!!!!!!たはは…w」

「なんでそんなに笑うんですか!ひどいですよ!」

「だって…ははw…いや…w…お前ぐらいの年齢で…w…カップ麺嫌いなやついんの見たことねえよ…w」


斗真は拗ねて、帰ろうとしたので、俺はよくわからないが、引き止めていた。


「悪かった悪かった。そう拗ねんなって。」


斗真はほっぺをぷくぅとさせていた。え、めちゃめちゃかわええ。


「おまえさ、仮にハムスターだったらわんちゃん俺お前のこと家で飼ってたぞ。」

「ホントですか!!」


斗真はそういいながら犬のように尻尾を振って興奮するので、


「いや、犬アレルギーだから犬だったら飼わない。」


と言ったら黙った。わかりやすい奴め。


その後はまあ、なんやかんや家を模索され、アイツの満足がいくまで俺はあいつのことを見張っていた。別にそんなにこわばった顔で、って意味じゃないけどな。


アイツがようやく帰ったのは夕方頃だったな。


それにしても、「カップラーメンが嫌いな20代」なんて今この時代いるもんなのか?


いやわかるよ?肌が荒れるから、太るから、胃もたれするから、健康に悪いから、控えるだったらわかるんさ。「嫌い」?!もちろん、好き嫌いは人それぞれだけど嫌いなんちゅう言葉初めて聞いたぞ、しかもカップ麺という王道な言葉で。


これも、「多様化」っていうのかな。

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