第2話

翌朝。今日もバイト。


「あざしたー」


俺は今日のバイトを終え、裏に入っていった。そこには田中の姿が見えた。


「なあ、田中。」


田中は俺の方を振り向いた。


「うわ!びっくりしましたよ先輩。お疲れ様です。」


「ああ、お疲れ。今からちょっと話さないか?」


田中は目をキラキラさせて言った。


「え、良いんですか!ぜひぜひ!」


俺らは事務室に向かった。



***



「それで話ってなんです?」


田中は、冷蔵庫にあったお水をコップに入れながら言った。


「お前についてよく知りたい。」


俺がそう言うと、田中の手が止まった。


「そ、それってどういう、い、意味ですか!!!?!?!?」


あまりにも驚くもんだから、少し引いてしまった。


「いやさ、お前、俺に告ってきただろ?その日の講義が、多様化についてでさ。講義を聞くだけでも勉強にはなるけど、お前みたいに実際に俺はこういう人なんですって人に実体験とか、いろんなの聞きたくてさ。」


田中は、なるほど、そういうことでしたか、と言った。


「俺がゲイだって気づいたのは、本当に最近で。高校の頃だったんスよ。高校の頃に、友達に彼女作れよとか言われてたんですけど、女の子にあまりときめかなくて。だけど、唯一好きになったのは、女性ではなくその友達で。手を繋いだり、ハグをしたり、キスをしたりしたいなとか思うようになっちゃって。それで、友達に告白したら、お前変なやつだったんだなって言われてフラレてしまったんです。そのときに初めて、あ、俺って普通じゃないんだ、おかしいんだと思い始めたんです。」


まあ確かに、その友人は彼女作れよとか言ってんだもんな。俺と同じ常識で生まれ育ったってやつだな。


「そこから俺は不登校になってしまいました。その頃は、多様化や、LGBTQなどの記事がネットにポンポンポンポンあがっていて、心が苦しくなったんです。やっぱり俺は普通じゃない。ここにいちゃいけないってなってしまったんです。しかも、告白した友人が俺がゲイだとクラス中に言いふらし、次々と連絡先をブロックされてしまいました。俺はそのとき、自殺を図ったんです。ですが、運悪く、今となっては運が良かったですが、母に見つかってしまい、怒鳴られてしまいました。カミングアウトをしようとしたのですが、あの時カミングアウトしていたらもっと怒鳴られていたでしょうね。実は、未だに母には打ち明けていません。」


「いつ、カミングアウトするつもりなんだ?」


田中はとても考えていたが、出た結論はこれだった。


「しないかもです。母はを育てたいでしょうし。ほら、俺、母子家庭で。母に迷惑はかけたくないんです、ストレスになってほしくないんです。」


なるほどなぁ。カミングアウトする人もいればしねえ人も世の中にはザラにいる、と。ふぅん。


「俺、外に出るときは、を演じるはずだったんです。でもなんででしょうね。先輩だけは、俺、正直な姿でいて良いんだ、って思ったんです。俺自身も理由はわからないです。」


最初は意味わからんと思ったが、人に信用されてるってことなんかなこれは。そう考えるとちょっと嬉しいかもな。今までの人生がクソすぎて。


「色々ありがとうな。今の段階ではお前に…」


「斗真、って呼んでください。」


「あ、ああ。と、斗真にできる返事がないからあれだけど、友達からなら始めてもいいぞ。」


斗真の顔がぱあっと明るくなり、笑顔になった。そんなに嬉しいのか。


「ありがとうございます!!!!!」


そこまで感謝されたら嬉しいじゃねえかよ。なんか…これからが…楽しそうになる気がしてきたな。

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