第6話ずっと一緒に
その後、俺はなぜだか「課金」にノリノリになった御厨四姉妹を跳ね飛ばし、踏みつけ、腕を振り回して――。
どうにか隣りにある我が家にたどり着き、内鍵を掛けたところで、ようやっと助かったという思いが湧いてきて、俺は玄関のドアを背に預けてずるずるとへたり込んだ。
はっ、はっ――! という自分の呼吸音がうるさく、冷や汗が止まらない。
しばらく呼吸を整えようと躍起になって、俺は四つん這いのまま、どうにか家の玄関に上がり込んだ。
「ちくしょう、幾ら何でもあいつら調子に乗りすぎだろ……!」
ちくしょう、からかうにしても、先程のアレは幾ら何でも程があるだろう。
それどころか、俺が今まで必死に守ってきた山女ちゃんにまで「課金」スるよう迫り、そして実際に「課金」サせるなんて。
くそっ、明日から山女ちゃんとどんな顔して会えばいいんだ……!
毒づきながらもなんとか呼吸を整え、口元を拭ったところで……ふとあるものが目に入って、思わず俺はそれをまじまじと眺めた。
玄関に置かれている古びた写真立ての中に、一枚の写真があった。
十年以上前、御厨のおじさんおばさん、そして御厨姉妹と一緒に、近くの海に遊びに行った時に撮った写真。
皆それぞれが元気いっぱいの笑顔を浮かべ、にこにこと屈託のない微笑みを浮かべている中で、俺は両手でピースサインを浮かべ、間抜けに大笑いして写真に写っている。
よっぽど海が楽しかったのかな――と思いかけて、いや、と俺は思い直した。
ただただ海が楽しかったのではない。
たとえ海でなくとも、この頃は単純に、御厨姉妹と一緒にいられることが――何よりも嬉しくて楽しかったのだ。
仕事で全く実家に寄り付かない両親の代わりに、御厨のおじさんとおばさんは本当に俺を実の息子のように育ててくれた。
その恩に報いるべく、今はこうやって御厨家の家事や食事作りをして恩返しをしているつもりなのだが――本当にはそんなものは下心ありの建前でしかないことは、この写真を見ればすぐわかるし、俺が一番よくわかっている。
俺は――単純に、今も御厨姉妹と今も一緒にいたいのだ。
小さい頃から、俺たちは本当にいい幼馴染、いいきょうだい分だった。
何も隠し事などなく、何の意趣遺恨もなく、一緒に昼寝もしたし、一緒に風呂にも入ったし、一緒に遊びにも行った。
喧嘩することもあったけど、数分後には寂しくなった俺か彼女らのどちらかが謝罪し、後は何事もなく遊んだ。
俺たちはずっと一緒――その思いは、一方的にでもなんでも、まだ俺の中にある。
たとえ、御厨姉妹がどれだけ美しく、凛々しく成長したとしても、俺はあの姉妹の幼馴染として、兄弟分として、ずっと一緒にいたいと思ってしまっているのである。
しばらく、写真立ての中の写真を眺めていると――ぐうう、と、腹の音が鳴った。
そう言えば、先程の「課金」騒動で、せっかく作ったボロネーゼは三分の一ほどしか食べることができなかった。
俺が残したボロネーゼは姉妹の残飯処理係である風夏が始末するだろうし、洗い物や片付けは山女ちゃんか火凛あたりがやってくれるだろうから、俺が御厨家に戻る必要はあるまい。
「……パンでも食って寝るか」
俺はそうひとりごちて、玄関の電気をつけ、よろよろと壁伝いにリビングを目指して歩き始めた。
◆◆◆
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