第7話「課金」制度
俺――森崎神秀は、今わけあってこの四姉妹が住まいを為す魔窟、御厨の一軒家のハウスキーパーを務めている高校二年生だ。
父は出稼ぎ杜氏、母は世界的なフォトグラファーという、よくわからん取り合わせで一緒になった両親は、今も日本中、あるいは世界中を飛び回ることを至上の喜びとしているような変人どもで、俺が幼い頃からまず家に寄り付かない人々だった。
そのせいで、俺は隣家であり、両親の親友でもある御厨家のおじさんおばさんの下にほぼ一年中預けられ、そのご両親のご厚意と庇護の下で、なんとかこの歳まで生きてこられた。
それ故、俺と御厨四姉妹はオムツが取れたぐらいのころからほぼ一緒に育ち、共に遊び、共に喧嘩しあい、途中俺が引っ越して進路が別れた中学時代の数年間を除き、今までほぼきょうだいのように育てられた。
しかし、俺や御厨姉妹が高校に上がってすぐのこと。
御厨のお母さんのご両親、つまりこの四姉妹の母方の祖父母が高齢となり、ご両親はこの家を空け、田舎で同居することになったのだ。
私たちももう高校生、立派に自活できると主張して両親を見送った四姉妹だったけれど――俺はそれが完全なるウソ・でまかせであることは、彼女たちと付き合いの長い俺は内心で察していた。
とにかく――この四姉妹が曲者なのだ。
揃いも揃ってものぐさで、面倒くさがりで不器用で、顔と身体は抜群にいいのに、家事なんか出来てもやろうとしない自堕落な姉妹――それが彼女たちとほぼきょうだいのような感じで育ってきた俺の結論である。
そんな色とりどりの肉団子が四つもくっつけば、ぷよぷよじゃなくてもこの家は遠からず草木に埋もれて消滅するだろうことを、俺は早くから確信していた。
そういうわけで、俺はもっぱら隣りにある自分の家から勝手知ったる御厨家に出入りし、今やその家事一切を取り仕切っているというわけである。
いままで育ててくれた御厨の両親への恩返しと考えれば、それはむしろ俺が進んでやらなければならないことと思えたし、家事の類も嫌いではないので、学業との並行は全く苦ではなかった。
だが――俺がこの家の家事を取り仕切るようになってすぐ、つまり高校一年生の頃から、俺と御厨姉妹の間で、とある奇妙な制度が始まった。
それが「課金」制度――。
つまりキス一回で、四姉妹が様々な面倒事を俺に押し付けてくる習慣である。
最初こそ、馬鹿正直に一回一回身体を固くしてそれを受けていた俺だったけど、最近は慣れたもので、むしろそれは労働の対価として当然の権利だと開き直るぐらいにはなれたと思う。
しかし――いくら小さい頃からの幼馴染、否、半分家族のようなものとして育ってきたからと言って、俺だって年頃の男の子だ。
何しろ御厨四姉妹は、ほぼきょうだいである俺の目から見ても、顔と身体だけは抜きん出て完成されている美人姉妹なのである。
事実、俺たちの通っている高校で「御厨姉妹」と言えば知らぬものはいない超有名姉妹であり、もし彼女たちが男から言い寄られるたびに十円ずつでももらっていたら、今頃ひと財産になっているだろうぐらいの姉妹――それが御厨四姉妹なのだ。
それ故、幼い頃に共に全裸になってプールではしゃいだのも今は昔の話。
進路が別れた先の中学校で彼女たちが急激に女としての成長を見せたこともあり、俺は今ではこの曲者姉妹からの「課金」を、なんだか内心ドキドキしながら受け止めざるを得ない日常を過ごしているのだった。
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